第26章 トップ、浅野学秀の考え
とりあえず理由を述べる。
「……あんなに慌ててるのを久しぶりに見たんだ。君もコソコソしてるし。愛人は流石に言いすぎたが何かやましい事でもしているのかと思った」
東尾京香はそれを聞いて少し目を見開いた。
「浅野君、私の事を知らなかったのは私が転校生だからだよね。こっちに来てからたいして時間もたってないのにあんな怖そうな人とやましい事なんて出来ないっしょ」
……確かに一理ある。
僕が父に教えられたあの時まで東尾京香の事を知らなかったのは転校生だからだ。学年全員の顔と名前位は一致する。
「……フム」
東尾京香はさらに続けた。
「浅野理事長が急いでたのはテスト前で時間が無かったから。あと私がA組の前を通りたくなかったから。理事長と中で話したのは事務的な内容。全くもう……1日で浅野君と浅野理事長に腕掴まれるとか貴重な体験だね、めっちゃ痛いけど」
そんなに痛いのだろうか……と思ったが、よく見ると僕が掴んだ所がうっすら赤く腫れ上がっている。どうやら理事長にも同じ所を掴まれたらしい。
「それは悪かった。でもE組に謝る筋合いはない」
これは本心だ。僕より勉強が出来ないのに文句を言うなんて言語道断だと思う。
そんな僕の言葉に東尾京香はムッとした表情で言い返してきた。
「みんなE組E組うっさいのよ。いつか変わるからね、それ。弱者と強者は簡単に入れ替わるし、隔離校舎のせいで努力も見てないくせに」
「それ以上言うと吊るし上げるぞ」
勉強が出来ず、他に特筆した特技もない。下に見られても仕方ないだろう。
……でも、言い返してきたのは少し意外だった。
今までこれについて文句を言ってくる人も、僕に文句を言ってくるやつもいなかった。父は文句というか……説教だからな。対等に言い合える仲間は同級生にもいなかった。
東尾京香はさてと、と言葉を終えると、
「じゃあね浅野君。私帰るから」
と言ってきた。
そこから少し視線を空中に迷わすと、
「頑張れなんて言わないから。ズルはしないでね」
と言ってきた。
あくまでも自分の意見を貫き通す……E組のくせに強いやつだ。
「当たり前だろう。僕をなめるな」
東尾京香はこれだけ言って満足したのか、軽く会釈をして背中を向けた。
「……戦えば面白そうな奴だ」
対等に話せる相手は貴重だ。またいつか話してみたい。