第26章 トップ、浅野学秀の考え
この人に怒る、腹が立つ事は時にあるが、今はそれよりも弱みを握ることの方が重要だ。
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そしてA組でテストの賭けの話をした時。
東尾京香と思わしき生徒が、理事長に手を引かれているのを見た。頬を紅潮させ、精一杯ついていっている。
今の僕なら言える。あの時の僕は疲れていた。
ただ、母の手を引いているのも見たことが無かったから、何となく父に好かれてるんじゃないかと思ったんだ。
……トップの僕を差し置いて。
途端に東尾京香が何か知りたくなった。元々調べる気はあったし、山を登るのは面倒だったから丁度いい。
しばらくして挙動不審な彼女がA組の前にやってきた。理事長室から帰ってきたのだろう、明らかにA組に見つからないようにしている。
……わかりやすいな……。
そのままダッシュして行きそうになったので、僕は思い切り手首を掴んだ。
彼女は一瞬固まって、こちらにゆっくり振り返った。
「……え? えええ……? あ、浅野君……?」
流石に転校E組生でも知っていたらしい。僕は逃げられないように強く手首を握った。
「いてぇよアホー!!」
……口悪いな。
一応の確認の意味も込め、僕は初めて言葉を開いた。
「君にアホ呼ばわりされる筋合いはない。君は誰だ」
じゃあ何で話しかけたんだ、という表情で彼女は顔を歪めたが、その後更に言葉を綴る。
「それに答えさせてもらう前に私の手を離してくれるかな、浅野君」
「……君は何故僕の名前を知ってるんだ」
「有名だからだよ。質問に質問重ねないでってば」
この僕をアホ扱いとは腹が立つし、態度も全然変わらない。僕はバッと手を離した。
「……3年E組、東尾京香」
そう不本意そうに答える彼女。やはり東尾京香だった。
「……E組か。なんでE組の君が浅野理事長に手を握られて理事長室に連れて行かされたんだ」
「……え?」
連れて行かれた場所はやはり理事長室だったようだ。まあこの先にある部屋で理事長関係の部屋といえば理事長室位しか無い。
僕は言葉がうまく思い浮かばなかったので単刀直入に言った。
「君は僕の父親の愛人か?」
あからさまに、はあ? という表情を浮かべる彼女。
……そんな顔しないでほしい、再度言うが確かにこの時僕は疲れていたんだ。