第26章 トップ、浅野学秀の考え
……でも。
「まさかとは思いますが、教育業以外にヤバい事に手を出してらっしゃるとか?
不審者のウワサもありますしね。黄色い巨大タコを目撃したとか、コンビニスウィーツを買い占める黒ずくめの男とか、Gカップのねーちゃんが『ヌルフフフ』という声がして振り向くと誰もいなかったとか。…まあこれらは根も葉もないデマでしょうが」
父の顔が少し曇ったが、僅かな間にすぐいつもの顔に戻った。
「知ってどうする? ネタにして私を支配でもする気かい?」
父の弱みなら、握っていても得しかない。
「当然でしょう。全て支配しろと教えたのはあなたですよ」
「……フフフ、さすがは最も長く教えて来た生徒だよ」
ボールがポンポンと床に転がる。
「ははは、首輪つけて飼ってあげますよ、一生ね」
「ふふふ奇遇だな。私も君を社畜として飼い殺そうも思ってたとこだ」
空気が重くなるのが分かるが、僕は笑いを絶やさなかった。
……父の前で油断など見せられない。
2人で会話とも喧嘩ともとれる会話をした後、父はパソコンで1人の生徒の写真を見せた。
「東尾京香、3年E組」
「彼女がどうかしたのですか?」
「浅野君、私はね。彼女が怪しいと思っているんだよ」
「…何についてですか」
父の言っていることがいまいち伝わってこない。
「私はE組について知らない事が無いようにしたいのだが……彼女は何か隠している」
「証拠は?」
「無いから言ったんだろう。結果を君に伝えてどうする?」
まあ確かにそれもそうだ。
「なら、何で僕にそれを言ったんですか?」
「理事長という私と一生徒の君ではアンフェアだと思ったからさ。君の事なら上手いこと近付けるだろう? 私は近々彼女を呼び出す予定だがね」
……父は公平不公平を気にする人だっただろうか。情報をくれるのはこちらに有利になるから有難いが。
「何か隠している……の詳細は教えてくれないんですね」
「…私が知っているのは彼女が孤児だという事だ」
「え」
「彼女の転入届に両親は無く、E組担任の烏間惟臣が保護者となっている」
……孤児、か。
「寂しいと思う一面もあるだろう。君が知りたいといっているE組の事も、彼女からなら聞き出せるかもしれないよ?」
父の笑みは不敵で、無性に腹が立つ。
……だけど。
「情報、ありがとうございます」
僕は笑って返した。