第26章 トップ、浅野学秀の考え
……僕の父は浅野學峯。
この椚ヶ丘学園を10年で名だたる優良成績校に押し上げた…いわば天才ともいえる。
東尾京香を知ったのは、そんな僕の父にE組の事で問い詰めた時だった。
あれは確か…テストの賭けをする前辺りだった気がする。
―――
「理事長、あなたの意向通り…A組成績の底上げに着手しました。これで満足ですか?」
僕は理事長である父の指示に従い、A組の自主勉強会を開いたことを理事長室で報告していた。
「『浅野君』、必要なのは結果だよ。実際にトップを独占しなきゃ良い報告とは言えないな」
「………」
父の厳しい批評はいつも通りだから特に何も思わない。普通だ。
それよりも僕には気になることがあった。僕はいつだったかサッカー部が何かで優勝した時のサッカーボールを掴み、ヘディングを始めた。
「E組は他を上回ってはならない。あなたのその理念はわかりますが…なぜそこまでこだわるのかわかりませんね」
文武両道も父の意向だ。一通りのスポーツならこなせる。
僕は動きを止めずにヘディングからリフティングに変えた。
「確かに彼らの成績は上がってますが…しょせん限界がある。僕等に本気で及ぶとは思えません」
「私が君に教えたいのはそこだよ浅野君」
父はクルリと椅子を回転させ、こちらに向き直った。
「弱者と強者は簡単に引っ繰り返る。強者の座に居続ける。これこそが最も大変な事なんだ。
具体的には…そうだな。A組全員がトップ50に入り、5教科全てでA組が1位を独占するのが合格ラインだ」
「………」
……父の厳しい批評はいつも通りだ。
だが最近何か違和感を感じるようになった。それは……
「ではこうしましょう理事長。僕の力でその条件をクリアしましょう。そしたら…生徒ではなく息子として、ひとつおねだりをしたいのですが」
「…おねだり? 父親に甘えたいとでも?」
「いえいえ、僕はただ知りたいだけです」
僕はボールを上に高く蹴りあげた。
「E組の事で、何か隠してませんか?」
……違和感を感じるのは、必ずE組について関わっている時だった。
そのまま勢いよくボールを蹴る。
…父は何事もなかったようにボールを手で受け取った。
「どうもそんな気がしてならない。あなたのE組への介入は…今年度に入っていささか度が過ぎる」
僕は父を超えた事は無い。