第25章 期末テストは個人戦!?
理事長がいつもより少し焦りを滲ませた顔で手を握っている。どうやらテスト前で忙しいというのは嘘ではないらしい。
そのまま早歩きをし始めた、のだが……
くっそ速い!!!
大人の男と女子中学生。足の長さは全く違うし、理事長自体がそもそも足速い。
「ちょ、待ってください理事長おおおぉおおおぉ……」
手は痛かったけど、幸か不幸かそれのおかげでA組の前を早く過ぎ去る事が出来た。
△
理事長につき、理事長は椅子に腰を深くかけた。
離された手は少しヒリヒリと痛い。力強すぎなんだってば。
「……で、あのー…話って?」
「その制服、よく似合ってますね」
「はぁ?」
理事長が私を見る目は、私ではなく制服をじっと見ている。でもまさかそんなことを話しに来たわけではないだろう。
「……本当の用事は、なんですか」
俯いて切り出すと、理事長はさっきよりも乾いた笑い声を上げ、机の脇にあったパソコンを起動させた。ウィーンというパソコンの起動音だけが妙な空気の理事長室に響く。
「ピンクのシャツは女子だけかな」
「え、はい。ピンクか白か選べるんですけど、女子は殆どピンクを選んでたので……」
「OK、ありがとう」
少しの会話のあとまた沈黙。
「……分かったよ」
しばらくあとに低いバリトンボイスで理事長はそう言った。
「……何が、ですか?」
「これを見てほしい」
ノートパソコンをくるりとこちらに向け、理事長は微笑んだ。
「君の制服に合致する公立学校は、日本にない」
サラリと言われた言葉に、頭が真っ白になった。
「君がこちらに転校してきたのは3ヶ月前。つまり君の証言に沿うと君が2年生の時は美波桜中学はあったということだ。しかしここ1年間で無くなった中学を入れて検索した結果、君の制服を扱っている学校はない」
「…あ、あの、その……なにで検索したんですか」
素っ頓狂な質問にも理事長は冷静に答える。
「私が作ったソフトだ。テスト前だから少し雑になったが、ざっと二時間程度で出来た」
……だいぶ前から、あの日から。私の事を疑ってたのか。
「も、もしかしたら外国の日本学校かも知れないじゃないですか」
「その可能性はない。もちろんこのデータの中にも日本人学校はいれたし、外国の日本人学校で美波桜という日本的名前はあまり多くない」