第23章 裏切りは静かに火を燃やす
イトナ君の表情がザッと変わった。
自分の背後から枝が折れる音がしたからだ。
後ろを勢いよく見れば、殺せんせーが原さんを抱えている。
「で、イトナに一瞬でも隙を作れば、原さんはタコが勝手に助けてくれる」
カルマ君が指を軽く動かす。それに合わせて皆が動き出した。私も一緒に動く。
それを見た寺坂はニヤリと笑った。
「吉田! 村松!! おまえらは飛び降りれんだろそこから!!」
「はァ!?」
まあ確かにさっきまで闘ってたから飛び降りる隙が無かっただけだし……
「水だよ水!! デケーの頼むぜ!! 」
寺坂の言葉の裏に気付いたのだろう。吉田くんと村松くんは
「しょーがねーなぁ…」
と言って岩場から軽々と飛んだ。
「ま、まずい!!」
ようやくシロも気付いたようだ。
……まあ私も読んでなきゃ気付かなかったんだろうけど……
「殺せんせーと弱点一緒なんだよね、じゃあ同じ事やり返せばいいわけだ」
カルマ君のその言葉を皮切りに、皆が水場へ飛び込んだ。
イトナ君はあっという間に水に囲まれ、かけられ、触手がググ、とふくらむ。
「だいぶ水吸っちゃったね。殺せんせーと同じ水を。あんたらのハンデが少なくなった」
泡を食ったかのような表情の2人。
「で、どーすんの? 俺等も賞金持ってかれんの嫌だし、そもそも皆あんたの作戦で死にかけてるし。ついでに寺坂もボコられてるし」
…カルマ君はさっき自分も寺坂を殴ったことを忘れたのだろうか……。
ま、そんな事はいいか。さっき殴ったのは寺坂に間違いを教えるつもりだった訳だし…。
私は周りを見習って自分の足元の水を掬った。
「まだ続けるなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」
しばらくの沈黙。その場には、ただ水が流れる音だけが私の耳を震わせた。
「……してやられたな。丁寧に積み上げた戦略が…たかが生徒の作戦と実行でメチャメチャにされてしまった」
ゆっくりと足を動かすシロ。
「…ここは引こう。触手の制御細胞は感情に大きく左右される危険なシロモノ。この子等を皆殺しにでもしようものなら…反物質臓がどう暴走するかわからん」
シロはだいぶ岩の上に行ってから
「帰るよイトナ」
と声をかけた。