第23章 裏切りは静かに火を燃やす
「イトナ!! テメェ、俺とタイマン張れや!!」
寺坂はシャツを脱ぎ、自分の体の前に翳す。
そんな寺坂をイトナ君は呆れたように見ていた。……感情が分かりにくいな。
「止めなさい寺坂君!! 君が勝てる相手じゃない!!」
「すっこんでろふくれタコ!!」
……この2人の調子もいつも通りだな……。
「クス、布キレ一枚でイトナの触手を防ごうとは健気だねぇ」
楽しそうに笑ったシロは、冷酷な目に戻って静かに言った。
「黙らせろ、イトナ。殺せんせーに気をつけながらね」
一方少し上流では、カルマ君がその様子をじっと見つめていた。
「カルマ君!!」
「いーんだよ、死にゃしない。あのシロは俺達生徒を殺すのが目的じゃない。生きてるからこそ殺せんせーの集中を削げるんだ」
そりゃそうだ。人が死んだら守る意味も気にする意味も無くなってしまう。
「原さんも一見超危険だけど、イトナの攻撃の的になる事はないだろう。
たとえ下に落ちても、殺せんせーは見捨てないのは体験済みだし」
思い出すのはカルマ君が崖から落ちた時のこと。
殺せんせーはマッハでカルマ君を受け止めた。自分も器用に殺されずに。
「だから寺坂にも、言っといたよ」
寺坂、の単語に反応して、私は岩場から下を見下ろした。
イトナ君の触手が思い切り寺坂に向かう。
ドッと肉が当たる鈍い音が微かに聞こえた。
「気絶する程度の触手は喰らうけど、逆に言やスピードもパワーもその程度。死ぬ気で喰らいつけって」
寺坂はシャツだけで触手に耐えた。マッハのスピードの触手を。
「……すごい、な。気力も、実際の力も」
私は思わず呟いた。
ふと気づくと横にカルマ君がいる。……何故かニヤニヤ笑って。
何だその顔は、もしや俺の力だとでも言いたいのか。…確かにそうかもしれないけど。
「よく耐えたねぇ。ではイトナ、もう1発あげなさい。背後のタコに気をつけながら…」
しかしシロの言葉はまた遮られた。
イトナ君のクシャミで。
「寺坂のシャツが昨日と同じって事は…昨日寺坂が教室に撒いた変なスプレー。アレの成分を至近距離でたっぷり浴びたシャツって事だ。それって殺せんせーの粘液ダダ漏れにした成分でしょ、イトナだってタダで済むはずがない」
イトナ君はクシャミと鼻水(あと触手からの粘液)が止まらず、珍しく呆気にとられた顔をしている。