第23章 裏切りは静かに火を燃やす
「皆さん!!」
私の動揺をさて置いて殺せんせーは飛んで皆を助けに行った。
プールの先は険しい岩場。この水流じゃ、溺れるか、落下の衝撃で死は免れない。
「……ウソだろ? 『これ』…こんな事するスイッチだなんて聞いてねーよ…」
皆が流されていったプールの残骸で、寺坂は銃を見つめていた。
……殺せんせーのスピードで助けると、人の体は耐えられない。
この近くのどこかで解説しているはずのシロの言葉を思い出す。
さらに寺坂の昨日まいた散布剤によって殺せんせーの粘液は出し尽くされており、水を防ぐという判断もできない。
全員を助け終わる頃には、殺せんせーのスピードの低下は必至……。
私がゆっくり考えていると、寺坂の近くからガサリと音がした。
「…何コレ? 爆音がしたらプールが消えてんだけど」
カルマ君だ。サボっていたらしい。
「…俺は…何もしてねぇ。
話が違げーよ…イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに…」
「……!! …なるほどねぇ…自分で立てた計画じゃなくて、まんまとあの2人に操られてた…ってわけ」
カルマ君の言葉はその通りだ。
「言っとくが俺のせいじゃねーぞカルマァ!!」
流石に殺人となると怖くなったらしい。カルマ君の胸元を掴み、必死に叫ぶ。
「こんな計画やらす方が悪りーんだ!! 皆が流されてったのも全部奴等が…」
寺坂の言葉は最後まで聞けなかった。
ゴッ、と鈍い音がして寺坂が殴られる。
「ターゲットがマッハ20で良かったね。でなきゃお前大量殺人の実行犯にされてるよ。
流されたのは皆じゃなくて自分じゃん」
その言葉は、寺坂の胸にも私の胸にも…響いた。
ふ、と流し目でこちらを見るカルマ君と目がバッチリ合う。
「……東尾さん? 何でここに……」
まさか、と口が動く。
「東尾さんもこの計画加担して……」
「は!? 東尾!? 何でお前ここに…」
カルマ君の考えを述べる前に、寺坂が私を見て驚く。
「……違うみたいだね。俺は先行ってるよ。……寺坂。人のせいにするヒマあったら…自分の頭で何したいか考えたら?」
カルマ君は身軽に岩場を降りてゆく。
「……東尾さんもね」
すれ違いざまにウインク。
……うん、こりゃモテる訳だ。
私も軽くスカートを押さえて岩場を飛び降りた。