第22章 水に溺れる夏
「去年の夏にね、同じ組だったあの娘から泳ぎを教えてくれって頼まれたの」
イケメグは何かに淡々と話しかけているようだった。
「好きな男子含むグループで海に行く事になったらしくて、カッコ悪いとこ見せたくないからって。
1回目のトレーニングで…なんとかプールで泳げる位には上達した。けどね、海で泳ぐってプールより全然危険だから、その後も何回か教える予定だったの。…でも、なんだかんだ理由つけてそれっきり練習に来なくて、彼女はそのまま海に行っちゃった」
「…なんで?」
茅野ちゃんが不思議そうにいう。
「ちょっと泳げてもう充分だと思ったんでしょうね、もともと反復練習とか大嫌いな子だったし。
…で、案の定。海流に流されて溺れちゃって救助ざたに」
……それって自業自得じゃん!! 改めて聞いても『?』って感じだ。
「…それ以来ずっとあの調子。『死にかけて大恥かいてトラウマだ』『役に立たない泳ぎを教えた償いをしろ』って。
テストのたびにつきっきりで勉強教えている間に…私の方が苦手科目こじらせちゃってE組行きよ」
イケメグがつきっきりで勉強教える意味なんて、今の話を聞いてる限りない。
それでも教えるイケメグは、かなり頼られてて…依存されているのだろう。
「そんな…彼女ちょっと片岡さんに甘えすぎじゃ?」
「いいよ、こういうのは慣れっこだから」
その言葉を言った瞬間、私の前、イケメグの後ろでピッと鋭く笛が鳴った。
肩がびく、と揺れる。
その正体は殺せんせーだ。
「いけません片岡さん。しがみつかれる事に慣れてしまうと…いつか一緒に溺れてしまいますよ」
殺せんせーはそう言ってマッハで紙芝居を書いた。
「例えばこんな風に」
『主婦の憂鬱』、と書かれた紙芝居、突如はじまりはじまり。
▽
「ちょっとあんた、今月の家賃をどうするつもり!?」
妻は貯金箱に手をかける夫に必死で問いかけた。
「うるせーなパチスロだよパチスロ!!」
ひげを生やし、『屑』と書かれた帽子を被った夫は乱暴に妻の手を振り払う。
「ジャマすんなどけ!!」
「きゃっ!!」
夫の手はそのまま妻の頬へと向かった。
時が経ち、数時間後。
「…ごめんな、家賃がチョコ一枚になっちまった」
暗い畳の部屋で座り込む妻。