第22章 水に溺れる夏
どこから出したのか分からないサングラスを受け取り、イケメグが座った席の近くでチラッと見。
「ホラ、そこの文法が違うんだってば。正しくは……」
「あーそっかぁ、つながったぁ!!」
イケメグの目の前に座っている(少なくともイケメグよりアホそうな)子はさっき友達、と言っていた人らしい。
「期末テスト近いからさぁ! めぐめぐE組だけど私の苦手教科は得意だもんね」
「…ま、ね」
確かにイケメグの表情は明るくない。
「…あのさ心菜。私今やりたい事があってさ。もうクラスも違うんだしこうしょっちゅう呼び出されると…ね」
「…何それどーゆー事? 頼りにしてるのにもう呼ぶなって事?」
来たばかりなのに既に雰囲気険悪……
「…いや、そうは言ってないんだけど」
「…ひどい」
向かい側にいる『心菜』はがたんと立ち上がった。コップが倒れ、イケメグのノートにかかる。
「私の事、殺しかけたくせに」
……妙に迫力がある顔してんな……
「あなたのせいで死にかけてから…私怖くて水にも入れないんだよ」
お前風呂とかどうしてんだよ、と突っ込みたいがガマンガマン……
「支えてくれるよね? 一生」
イケメグにかかったコップの中身をぺろりと舐める。……気色悪い!!!
一生の重みが重すぎるよこの子!!
殺気立った雰囲気が一瞬で消える。
私はイケメグから見て目元が見えないようにしゃがみこんだ。
「あ、もぉこんなじかーん、友達と遊ぶ約束に遅れちゃう。
じゃーねーめぐめぐ♪ これからもずっと私だけのイケメグだよ!!」
声だけ聞こえて、足音が遠ざかる。
「…で、そこの不審者3人組は何か御用?」
どうやら私は気付かれてなかったらしい。良かった……。
殺せんせー、渚君、茅野ちゃんは素直に立ち上がった。
私はドヤ顔で立ち上がった。
「イケメグ、気付かなかったね!」
「何、京香もいたの。皆出歯亀なんだから……」
はぁ、とため息をつくイケメグに、私はお手拭きを差し出した。
「すぐ拭いちゃいなよ、汚いんだから」
「……うん、ありがとう」
イケメグは素直に手を拭いて、ファミレスを出ようと促した。
「色々説明するから」
と、渚君と茅野ちゃんを見る。
「殺せんせーも来なよ、京香も」
そう言って住宅街を歩き出した。