第22章 水に溺れる夏
「水中にいるのが私だったらいつでも任せて」
後ろに手をやり、髪留めを外すイケメグ。
「バレッタに仕込んだ対先生ナイフで…いつでも殺れる準備はしてる」
私は横にいた(というか近づいた)愛美ちゃんをつんつんとつついてきいた。
「あれ、バレッタっていうんだね」
「はい、そうです。私も詳しくは知らないんですけど、あれ片岡さんのお気に入りの髪飾りを加工したらしいです」
へー…女子力も暗殺力も兼ね備えてるなんてすごいなあ。
「おお〜、昨年度の水泳部クロール学年代表、片岡メグ選手の出番ってわけだ」
前原くんが唯一声をかけなかったイケメグを賞賛する。
「まず大事なのは殺せんせーに水場の近くで警戒心を起こさせない事。
夏は長いわ、じっくりチャンスを狙ってこう!」
イケメグの言葉にクラスが一致団結、誰からともなくおうっ! と声が上がる。
解散した後、イケメグについて話している人がちらほら。
「うーむ、さすがは『イケメグ』」
「こういう時の頼れる度合いはハンパじゃないな」
…私は漫画でしか知らないから、きちんと聞いてみようかな。
さっきの会話をしていた三村くんに聞いた。
「ねえ、三村くん。イケメグって2年生の時どんな人だった?」
三村くんは突然の質問に驚いたようだったけど、きちんと答えてくれた。
「え? 片岡? んーと、とりあえず今もクラス委員やってるって事は2年生の時も信頼はあったんだろうな。文武両道、面倒見もよくて、女子から告白される位にはイケメン、だから気づいたら『イケメグ』って呼ばれてたな」
三村くんの後に言葉を続けるように、
「さっき飛び込んで助けてくれた時とかさぁ、イケメンすぎて惚れそうになっちゃったよ」
と茅野ちゃんが照れた。
うーん、聞けば聞くほど完璧人かつイケメン。
うちのクラス委員両名は、どうやらどちらも憎めないイケメンらしい。
そんな彼女がE組に落ちた理由を……まあ私は知ってる訳なんだけど。
それでもここで懸命にやってるって事は、彼女なりに責任感があるんだろうな。
……さて、どうしよう。
イケメグはこの後プールで練習をする訳なんだけど……あんまりついていくと迷惑だろうし……。
とりあえず今日は烏間先生の訓練、ちゃんと受けようかな。
私は校舎へと足を運んだ。