第20章 アートは立体かペイントか。
「へー、ペイントなんだこれ!!」
倉橋さんのキラキラした瞳は、菅谷君の腕へと向いていた。
「メヘンディアートっつってな。色素が定着したら1週間ぐらい取れねーんだ」
「あー、インドのやつっしょ」
このアートに意外にも声をあげたのはカルマ君だ。
「知ってんだカルマ君」
「うちの両親インドかぶれで旅行行く度、描いてくるよ」
そんな菅谷君にビビってたのは殺せんせー。
「よ、良かった…!! 先生てっきりうちのクラスから非行に走る生徒が出たかと」
「…相変わらずそういうとこチキンだよね」
殺せんせーの弱点⑩、世間体を気にする。
そんなことを言った殺せんせーの周りにはたくさんの本が散らばっていた。
『なぜ若者は非行に走るのか』『ゼロから入るカウンセリング』『体の成長心のケア』『グレる少年グレない少年の違いとは』……などなど。
菅谷君はクラス…いや、学年でもトップクラスの美術の上手さを持っている。
絵も造形も、ポスターや変装マスクまでなんでも来い。
「よかったら殺せんせーにも描いてやろうか?まだ塗料残ってんだ」
「にゅやッ、いいんですか?」
殺せんせーは嬉しそうだ。
「へー、溶けたチョコで絵をかくみたいなやり方なんだ」
バレンタインのチョコペンを思い出す……。
「楽しみですねぇ、先生こういうイレズミみたいなの一度は描いてみたかったんです」
わくわくしている殺せんせーに菅谷君が、ツゥ、とペンを添える。
その瞬間ドロっと先生の顔が溶けた。
「ギャー!!」
「ギャー!!」
横をくるりと向いてさらに
「ギャー!!」
前を向いては
「ギャー!!」
ぎゃああぁああと窓に向かって叫ぶ殺せんせーに、皆は納得顔。
「なるほど…対先生弾を粉末にして塗料の中に練りこんだのか」
「確かに先生完全に油断してたけど…殺すまでじっとしててはくれないよね」
「…うーむ、ダメか」
一通り叫び終わった殺せんせーは、菅谷君に向かって触手を立てた。
「アイディアは面白いですが菅谷君。効果としては嫌がらせのレベルです。
…ていうか、先生ふつうにカッコいい模様描いて欲しかったのに」
しくしくと泣き出す殺せんせーに、菅谷君は慌てて
「わ、悪かったよ! 普通の塗料で描いてやるって」
と言った。