第19章 球技大会は女のバトル。
カルマ君の挑発は続く。
「気にせず打てよスーパースター。ピッチャーの球はジャマしないから」
ここでようやく理事長の声が聞こえた。
異様な空気に飲み込まれたグラウンドに、妙に通る声で理事長のバリトンボイスが響く。
「フフ、くだらないハッタリだ。
構わず振りなさい進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ」
進藤君の顔に激震が走る。
動揺、戸惑いとか、その他諸々。
それでも杉野くんが投げたボールに対してバットを振る。
バットが当たる寸前、カルマ君と磯貝君はほとんど動かずかわした。
いつもよりバットを振る速度が遅かったのだろう。杉野くんの変化球に対応出来ず、思い切りストライク。
暗殺で鍛えられた2人の動体視力はE組でもトップ。
バットをかわすくらい訳ないだろう。
「……だめだよ、そんな遅いスイングじゃ。
次はさ、殺すつもりで振ってごらん」
もはや野球とはいえない。
慣れた私達からすると、これは。
「……コロシ…? いや、暗殺…かな」
暗殺、だ。
杉野くんがもう1度投げたボールに、腰が引けたスイングでバットが当たった。
そのボールをあっさりカルマ君が取り、キャッチャーの渚君へパス。
『サードランナーアウト!!』
「渚、そのボール三塁へ!!」
E組の戦略に唖然として動けずにいた野球部がようやく動き出した。
『セカンドランナーアウト!!』
「木村、次は一塁へ!! 進藤走ってないから焦んなくていいぞ!!」
進藤君は腰が抜けたのか、へたりこんでしまった。
ボールは2回ほどバウンドし……
そのまま一塁の菅谷君へボールが渡った。
「バッターランナーアウト……ト、トリプルプレー…」
審判の先生は、目の前の光景が信じられてない。
『ゲ…ゲームセット…!! …なんとなんと…E組が野球部に勝ってしまった!!』
全国でも有数の野球部が、ただの落ちこぼれクラスに負けるなんて、そんな光景を。
「キャーやった!!」
「男子すげぇ!!」
盛り上がるE組とは反対に盛り下がるAからD組。
理事長は無言でベンチから立ち上がった。
人が引けていく。
座り込む進藤君に、杉野くんは近づいた。