第19章 球技大会は女のバトル。
「やー、すごかったね!!」
莉桜がパタパタと胸元を仰いだ。
「まさか勝てるとは思わなかったよ〜!」
「いや、でもごめんね、私が足引っ張っちゃって……」
「そんな事ないって茅野さん」
みんなの会話が右から左へ流れてゆく。
私はただ黙って聞いていた。
「女バスのキャプテンのぶるんぶるん揺れる胸元を見たら…怒りと殺意で目の前が真っ赤に染まって」
「茅野っちのその巨乳に対する憎悪はなんなの!?」
てくてく歩いて校庭へ。
「さて、男子野球はどーなってるかな」
最近二つ結びにしだした速水さんがちらりと板を見た。
「よぉ」
三村くんも笑顔で答える。
「!」
「すごい!」
「野球部相手に勝ってるじゃん!!」
みんなが興奮して言うが、男子の表情は芳しくない。
「あー、ここまではね。
で、一回表からラスボスが登場ってわけ」
男子の野球。
途中までは殺せんせー特訓のバントで3点先取したものの、非常事態だと察した野球部員に、理事長が『ご指導』をするらしい。
遠くにいる殺せんせーらしき影(野球ボールに変装しているから分かりにくい)も焦った様子。
私は地面に軽く座った。
「京香どうしたの、元気ないね」
茅野ちゃんの言葉に私は手を振った。
「ちょっと疲れてるだけだよ」
「そう?」
茅野ちゃんの問に頷くと、茅野ちゃんは野球場に目をやった。
そこへ放送部員の放送が入る。
『…!! 今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で…野球部員も先生が心配で野球どころじゃなかったとの事、それを見かねた理事長先生が、急きょ指揮を執られるそうです!!』
放送に沸き立つ会場。
……これすらも、理事長の差金か……。
私は目を凝らして遠くの殺せんせーをもう1度見た。
……変わらず焦ってる…。
ねえ、殺せんせー。
野球も大事だけど、私の話を聞いてほしい。
話を変えたくないとあれほど言ってた私が、変えてしまったんだから。
だから、この野球が終わったら、どうか。
私を叱ってください。