第18章 もう1人の転校生、堀部イトナ
「やめなさい」
……何かの、声が聞こえた。
ゆっくりと振りかえる。
「……浅野理事長…?」
妙にいい声でこちらに声をかけた理事長は、車の中からニコリと微笑んだ。
……気のせいかな。
理事長とは違う声がもうひとつ、聞こえた気がしたんだけど。
でも目の前にいるのは理事長だけだ。
……気のせいだね。
私は理事長に聞いた。
「やめるって……何を?」
「……君が、川に飛び込むように見えたからね」
「え?」
いや、全くそんなつもりはない。
「もう4時だというのに、私服でここにいるからどうしたものか、とね。東尾さんは休みの連絡が来てた気がするが」
ひええ、記憶力いい……ってもう4時!?
夏至も近いせいか、日はまだまだ落ちる様子を見せない。
……そうか、ブラブラ歩いてたら4時になっちゃったのか。
まあ間食ならしてたしなあ。
「……飛び込んだりなんて、しませんよ」
私は理事長に笑顔で言った。
「……なら、良いがね」
理事長の乾いた笑顔は見ていていいものではない。
「じゃあ、さよな……」
と声をもう1度かけたその時。
「ぎゃっ!?」
ずっと手をかけていた柵がバキッと言った。
もちろん壊れはしなかったけど、バランスが崩れ、勢いよく頭が川の方へ向く。
「う、わわわっ!!!」
やばい、このままだと落ちる。
血相を変えた理事長が一瞬見えたような気がした、時。
がしっと右手と左手が掴まれた。
「……!!」
数秒後、固く閉じていた目を開けると。