第18章 もう1人の転校生、堀部イトナ
……放課後。
皆の机を四面の壁に寄せて、殺せんせーと堀部くんは真ん中に立った。
堀部くんは上着を勢いよく脱ぎ捨てる。
「机のリング…!?」
イリーナ先生が腕を組んで驚く。
「ああ、まるで試合だ。こんな暗殺仕掛ける奴は初めてだ」
烏間先生が吐き捨てるように呟いた。
「ただの暗殺は飽きてるでしょ殺せんせー。ここはひとつルールを決めないかい」
自称保護者を名乗るシロさんは、堀部君の肩をぽんと叩いて言った。
「リングの外に足が着いたらその場で死刑!! どうかな?」
殺せんせーは言葉をなくした。
「…なんだそりゃ。負けたって誰が守るんだそんなルール」
杉野くんは訝しげに言うが、カルマ君は納得したように頷いた。
「…いや、皆の前で決めたルールは…破れば『先生として』の信用が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだあの手の縛り」
以前、殺せんせーが文字通り命をかけて助けてくれた件。それがなければカルマ君はこんなに断言出来なかっただろう。
「…いいでしょう、受けましょう。ただしイトナ君。観客に危害を与えた場合も負けですよ」
堀部くんが頷いたのを見てシロさんは手を挙げた。
「では合図で始めようか。
暗殺……開始!!」
皆の独特な緊張の中、シロさんの手は降ろされた。
間髪あかず、殺せんせーの触手がザン、と切り落とされる。
……見たことあるけど、ない。
だってこれは、リアル。
マンガでもアニメでもなく、現実だ。
殺せんせーの切り落とされた触手でも、皆が驚いているのにも目が行かない。
「…まさか…」
ヒュッと空を切るそれは。
「触手!?」
雨の中でも濡れない理由。
それは触手で水を全て弾けるから。
「……………………こだ」
言葉の切れ端しか聞き取れない、のに。
殺せんせーの僅かな言葉にはとんでもない迫力があった。思わず鳥肌が立つ。