第18章 もう1人の転校生、堀部イトナ
微笑んだ、というのは正しくないかもしれない。
微笑む素振りを見せた。
何せ目以外白装束だから全く見えない。
「では紹介します。おーい、イトナ!! 入っておいで!!」
ほんの少し緩んでいた空気がまたピン、と張る。
皆の視線が無意識に扉に向かった、その時。
私の後ろでゴッと音が鳴った。
背面黒板が木と共にガラガラと崩れ、その中から転校生が入ってくる。
……色々おかしいでしょ!!!
ドアから入れ!!!
転校生の堀部イトナはストンと自分の椅子に座ったが、周りは木屑だらけだ。
「俺は…勝った。この教室のカベよりも強い事が証明された。それだけでいい…それだけでいい…」
外から雨が入ってくる。
皆が異様なものを見るような目で(実際異様だ)堀部イトナを見つめた。
殺せんせーもよく分からない……ってかなんだそのバランスの崩れた微妙な顔は!!
「堀部イトナだ。名前で呼んであげて下さい」
変な顔の殺せんせーにも戸惑うこと無くシロさんは言った。
「ああ、それと。私も少々過保護でね。しばらくの間彼の事を見守らせてもらいますよ」
当然の如くシロさんは言ったが、皆は戸惑い気味だ。
白ずくめと、物を壊す怪力転校生。
……まあ戸惑うなっていうほうが無理だろうなあ……。
私は何度もなんどもアニメとマンガで見ている顔を横から見つめた。
「ねえイトナ君。ちょっと気になったんだけど」
カルマ君が、ふと気付いたように話しかけた。
「今外から手ぶらで入って来たよね。
外どしゃ降りの雨なのに…なんでイトナ君一滴たりとも濡れてないの?」
カルマ君の言葉にハッと気づいたように皆も堀部イトナを見つめる。
その質問を無視して、堀部イトナはきょろきょろと教室を眺めた。
「………おまえは」
椅子からガタリと立ち上がり、私の後ろを通ってカルマ君の方へ向かう堀部……君。
「たぶんこのクラスで一番強い。けど安心しろ。
俺より弱いから…俺はおまえを殺さない」
堀部くんは軽くバカにしたようにカルマ君を撫でた。
「俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない奴だけ」
カルマ君は頭を押さえて小さく舌打ちした。
堀部くんはカルマ君の元を離れ、殺せんせーの元へ向かう。
「この教室では、殺せんせー。あんただけだ」