第15章 梅雨の話
翌日の放課後。
今日は烏間先生の訓練はない。いそいそと帰ろうとすると。
「京香、お願い協力して!!」
「……えええ……」
予想通り…と言うべきかなんというか。
クラスのチャライケメン、前原くんが彼女(今は元カノ)にバカにされた場面に出くわしたE組メンバーは、復讐を誓ったらしい。
もちろん殺せんせーもノリノリで。
「……烏間先生に知られたら怒られるよー?」
お願いをしてきたのは岡野さんだ。
「そうだけど……」
言い淀む岡野さん。
……分かるよ。
好きな人がバカにされてたら、きっとやり返したくなるだろう。
「……で、私は何したらいい?」
途端にパアっと顔を明るくした岡野さんは、ちょいちょいと手を振った。
「菅谷!」
……え、菅谷君?
「宜しくな、東尾」
何の担当になるかと思ってはいたけど……菅谷君って確かこの時、変装マスクの担当…だよね。
「お前、美術成績いいだろ」
……まあ5教科以外は結構何でも得意だけど…。
「……うん、好きだよ」
「よし、なら決定だ。俺は変装マスク作るから服とか帽子とか見繕ってくれ」
……それ美術関係ある!!?
「えええ!? まあ、いいけど……」
「ちょっとお年寄り向けのやつ、頼む」
菅谷君はそういうといそいそと準備を始めた。
「俺は今から元のマスク買ってくる。ちなみにじーさんばーさん役はあの2人な。大体の筋は聞いてるだろ?」
「…うん」
本当は聞いてないけど、大丈夫。覚えてるから。
「じゃあよろしく頼む」
私は菅谷君を見送った。
『あの2人』とは……。
後ろをくるりと振り向くと、恥ずかしそうな渚君と茅野ちゃん。
「協力するとは言ったけど……」
「まさかこんな形で……」
……まあ老人役なら小さい2人が妥当なのよな……。
「2人とも、頑張って!」
「「う、うん……」」
きっと、裏でこういういざこざや話し合いがあって、この話は……この世界は成り立ってたんだな。
こちらの世界でしか見れない、裏の景色。
それが、こっちでは当然で、日常で……。
「……すごいね」
私は殺せんせーからお金を受け取り、ぽつりと言った。
「? そうでしょう、この計画の緻密さ!」
殺せんせーは勘違いをしたけど、まあいいや。
私は玄関を飛び出して街に出た。