第13章 修学旅行の時間!
「菜津が好きな人がいるっていうのは…知ってた。でも接点はなくて、たまに話す事しか出来ないっていうのも」
…こっちも、鮮明に思い出せるな……。
菜津は頑固で、なかなか名前を言わなかった。
運動部で、背が高くて、優しい。
運動部なだけで何人いると思ってるの、って笑った。
菜津はそんなに背が高くないから、大体の男子は背が高く見えるだろうし。
「……それで、修学旅行で…告白するって言ってたんだ。付き合ったら、私にも紹介できるって言って」
忘れもしない、9ヶ月以上も前の事。
「…結果的に、成功したの。告白成功って噂にもなってたらしいんだけど、私は知らなくて、修学旅行が終わりかけのバスの帰り道……聞いたの」
こんな事が帰りたくない理由なんて……馬鹿げてると、思う。
でも、それしか思い当たらないんだ。
「『結局誰だったの』って聞いたら、『5組の谷川仁くん』って嬉しそうに」
谷川仁くん。
私は卓球部の部長同士よく喋ってた。
もちろん部活が違う菜津は知らなかった。
女子にも男子にも優しくて、頼れるキャプテン。
いつからか、私は仁くんが好きになっていた。
でも今は言わない。
部活が終わる7月、告白しようと決めた矢先の事だった。
「……仁くんは男子卓球部の部長でね、私も好きだったの」
動きがストップした私をよそに、菜津は楽しそうに笑った。
『告白しようとしたらあちらから告白されたこと』。
『夏休みは花火大会にいこうと誘われたこと』。
『委員会が忙しいからたまにしか帰れないけど、迎えにいく時はたまに一緒に帰ろう』とも。
『京香、どうしたの? 動き止まってるけどまさかバス酔いしちゃった!? 大丈夫!? 今薬の箱開けるから待ってて……』
…菜津は優しい子。
そんな菜津に、私も仁くんが好きだったなんて……
絶対に、言えなかった。