第16章 リフレイン
首筋を撫で下りた右手が、今度は俺を抱くように腰に回る。
智くんの頭が俺の右の肩口に置かれ、軽くもたれ掛かってきた。
「んふっ、可愛い…翔ちゃん、感じちゃったの?」
首筋に智くんの熱い息がかかる。
「あ…ち、がっ…」
指摘され顔が熱くなる。
「照れるところも可愛い…」
残っていた左腕も腰に回って、完璧に抱きしめられてる。
ドキドキして動きがとれなくなった俺の視界の端に、上田が歩いていく後ろ姿が見えた。
肩を落とし歩いて行く姿は、まるで闘いに敗れたボクサーがリングを去っていく様だった。
智くんの狙いが成功したってことだよね。
「さ、としくん…上田、もう行っちゃったよ?」
「ん、そう?」
「うん…」
それなのに、智くんは俺から離れなくて…
「あ、の…智くん?」
「ん?」
離れるどころか、俺の首に唇が触れる。
「だから、上田…もういないから…あっ、」
智くんの唇が鎖骨の辺りを這った。
「はぁ~、翔ちゃん…俺、もうダメかも…」
熱い息を吐きながら、智くんの両腕に力が入りキツく抱きしめられた。
「えっ⁉智くん、具合悪くなっちゃった?待ってて、すぐタクシー呼んでもらうから」
智くんの肩を支えるように歩き、部屋まで戻ると店員さんにタクシーを頼んで貰った。
「大丈夫ですか?大野くん」
俺の肩に寄りかかってる智くんを、増田が心配そうに見てる。
「ん~、飲みすぎたのかなぁ?そんな飲んでいたようには見えなかったんだけど…疲れてたのかも。悪いけど、俺送っていくから先に帰らせて貰うな」
「はい。お疲れさまでした」
「ご馳走さまでしたっ」
「ありがとうございました。またアニキ会やっても良いですか?」
上田が遠慮がちに聞いてきた。
「もちろん。また皆で飲もうな?」
上田が少し寂しそうに微笑んで頷いた。