第16章 リフレイン
「ちょっと待ってよ!そんな作戦成功する訳ないじゃん」
「大丈夫、大丈夫」
俺の反論なんて物ともせずに、ニコニコと笑うだけの智くん。ほんとに何を考えてるのやら…
でも、智くんの恋人か…フリだけでもちょっと嬉しいかも。
「あ、でもね…あからさまに恋人同士演じちゃ駄目だよ?あくまでも周りには秘めた関係ね?わかった?」
「いや、よくわからないけど…」
秘めた関係の恋人を演じてどうやって上田を牽制するんだよ。
「実際さ、恋人宣言なんて出来ないでしょ?だから、リアリティーを追求してさ、公言はしないけど、今日も『心配でついてきちゃった』みたいなのを演じるの」
「それ、結構難しくない?出来るかなぁ…」
「大丈夫だって!俺に任せてよ。翔ちゃんは俺に合わせてくれればいいからさ」
「う、ん…わかった。やってみるけど…」
不安が拭えないまま、タクシーは店に着いてしまった。
店員さんに個室に案内されると、既に上田と増田が来ていて
「お疲れさまです」
「お疲れっす」
「お疲れ~」
「ども…」
座敷に上がり、ふたりの向かい側の席に、智くんと隣り合わせに座った。
「翔くんから連絡貰って吃驚しましたよ。大野くんが来るなんて、思ってもみなかったんで」
今回の幹事の増田には、事前に智くんの参加は伝えておいた。
「ん~?アニキ会ってどんな感じで飲んでるのかなぁ、と思ってさ」
「大野くん、アニキ会に興味あったんですか?」
「ん、まぁ、ちょっと気になることがあったから…」
そう言った智くんは視線をチラッと上田に向けた。その視線を受けた上田は一瞬ビクッとして見えた。