第13章 pray
「はい、じゃあ智くん『あ~ん』」
フォークで一口分掬うと智くんの口元に運んだ。「あ~ん」と言いながら大きく口を開ける智くんは可愛らしかった。
「うん!うんめぇ!」
「良かった…って言っても飾っただけだからね、味は美味しいに決まってるんだけど」
「いいや、翔くんが作ったから旨いんだよ」
お世辞なのはわかってる…でもそんな風に言って貰えたことが嬉しい。
「なぁ、翔くんも食べてみなよ…ほんとに旨いから」
智くんはフォークを手を持つとケーキを掬い俺の口へと運んだ。
「あ~んして?」
「あ~ん」
パクっと口の中へ頬張ると確かに旨い。
「うん、うまっ!」
「だろ?」
智くんが嬉しそうに笑う。
「もしよろしければ大野さんが作られたケーキ持ち帰っていただいて大丈夫ですよ?」
「ほんとに?やったぁ、貰って帰ろ」
またまた嬉しそうに笑った智くん…本当なら好きな人に渡したいんだろうな、このケーキ。
智くんはいつ相手の人に想いを告げるんだろう。一昨日3人が話している時にそろそろいい話しが聞けそう、って言ってたな。てことはさ、多分上手くいく可能性高いんだろうな…もしかするともう既に上手くいってるのかも。その事を今日報告しようとしているのかな。
俺の心の中に今度は黒いモヤモヤが現れ始めた。最近増えてきたなぁ、得たいの知れないモヤモヤやムズムズ…いったい原因は何なんだ?