第13章 pray
少しの時間智くんの胸を借りて泣いたらちょっとだけ気持ちが楽になった気がした。
「ありがと、もう大丈夫だから」
智くんから体を離し一歩後ろに下がった。
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ならいいけど…ほんとはもっとちゃんと話を聞いてあげたいんだけど今は時間ないから」
「ほんとにもう大丈夫だって…智くんは俺に構ってる場合じゃないでしょ?」
智くんにはちゃんと大切な恋人が出来たんだから。
「なんで?俺はいつでも翔くんに頼りにされたいよ?前にも言ったじゃん」
「駄目だよ、そんなこと言っちゃ…智くんの大切な人に聞かれたら誤解される」
「なに言ってるの翔くん?そんなの誤解されないよ」
そっか…そんなことで誤解されるような仲じゃないのか…ふたりの想いはそれほど強いんだ。
「そうだよね、ごめんね、変に気を遣って」
なんだかまた苦しくなってきた。
「翔くん…翔くんの方こそ何か誤解してない?」
「…してないよ」
「やっぱりちゃんと話そう?」
「いい、大丈夫…時間ないし…ファンの人にちゃんとしたライブ見せるんでしょ?準備しなくちゃ見せられないよ?」
智くんは視線を外し小さく溜め息を吐くと俺に視線を戻しじっと見つめてきた。
「わかった…翔くんのこと信じてるから…ステージの上ではいつもの翔くん見せてくれよ?」
「勿論だよ」
「よし!じゃあ行こう」
「うん」
踵を返し歩き出した智くん。大丈夫、いつもと同じようにやれる…智くんの信頼を裏切るわけにいかないんだから。俺はひとつ大きく深呼吸をすると智くんの後に付いていった。