第11章 One Step
高尾山に着くと早朝だったせいかまだ人はまばらだった。
「智くんどうする?下から歩く?」
「時間あるから下から歩いてこ」
「うん」
朝の澄んだ空気の中ふたり肩を並べて山道を進んでいく。
岡田の言っていた通りだな…自然に触れていると心が洗われる。日頃の雑念が消えて、今、こうして翔くんとふたりでいらることが幸せなんだって素直に思えた。
たまに触れ合う手を捉えてそっと握った…翔くんもそっと握り返してくれる。言葉を交わさなくてもお互いの気持ちが伝わる…この手をずっと離したくない…そう思った。
山頂に着いてふたり横に並び景色を眺める。
「はぁ~、気持ちいいな…」
深呼吸をして呟いた。
「うん、気持ちいいね…」
翔くんも深呼吸をする。
「ねぇ、翔くん…」
「ん~」
「俺たちさぁ、付き合おっか…」
いつものトーンでそう聞くと
「…うん、そうだねぇ…」
いつものトーンで返事が返ってきた。
横を向くと今にも溢れそうな涙を目に溜めている翔くん…そっと頬にキスをすると一筋の涙が溢れた。
そのまま何も語らず暫く景色を見ていた。
「帰ろっか…」
「…うん」
微笑む翔くんの手を取り、歩いて来た道を戻っていった。
帰りの車の中でも今までと変わることない空気感。
こうなることが極自然なことだったと気づく。
今までと違うのは心が幸せで満ち溢れていること。
なんでもっと早くこうしなかったのかな…
マンションに着くと翔くんの手を引き部屋に帰る。
リビングまで連れてくと翔くんをいきなりぎゅっと抱きしめた。
クスクスと笑い声が聞こえる。
「翔くん?」
「智くんってほんと自然人だよね…」
「自然人?」
「うん、思ったことをそのまま行動に表すから何を考えてるかわかりやすい」
「そう?それって翔くんだからじゃないの?」
「そうかなぁ…皆わかってると思うよ?」
「ん~、俺が翔くんの事を好きなのはバレてたみたいだけどさ、俺の事を何でも理解してくれるのはやっぱり翔くんだけだと思うよ?」
「ふふっ、そこは誰にも負けない自信あるかも…もう出会ってから20年以上だもんね、家族よりも一緒にいる時間長いし」
「出会った頃は翔くんと付き合う事になるなんて思わなかったな」
「そりゃそうでしょ、俺だって思わなかったよ…ずっとこのままでもいいと思ってたし」