第8章 とまどいながら
トイレに入ると水道で顔を洗っている翔さんがいた。
「翔さん…」
声を掛けるとゆっくりと顔を上げる。
鏡越しに見るその瞳にはまだ涙が残っていて…
「翔さん、あなた大野さんのこと…」
翔さんはビクッと肩を揺らした。
「ごめん、ニノ…」
そう言うと瞳から涙が溢れた…
「なんで謝るんです?
翔さんなにも悪くないですよ?」
「だって、俺…」
翔さんに近づきポケットに入っていたハンカチを差し出した。
「どうぞ」
「…ありがと」
翔さんはハンカチを受けとると顔を拭いた。
「翔さん、なにか勘違いしてませんか?」
「勘違い?」
「ええ、私と大野さんの関係」
翔さんは哀しそうに目をそむけた。
「そんな顔しないでください
だから勘違いしてるって言ってるでしょ?
むしろ謝るのは私の方です」
「…なんでニノが謝るの?」
「私が翔さんの気持ちに気づいていれば翔さんに勘違いさせるような行動取らなかったのに…
ごめんなさい」
「…ふたりは付き合ってるんじゃないの?」
「付き合ってないですよ?
大野さんの話には付き合わされましたけど、正直言って超迷惑です」
そう言って笑い掛けると翔さんの表情も和らいだ。
「超迷惑って…智くんが話するなんて何か大事な相談じゃないの?」
「まぁ、そうですね
でも私のアドバイスを全く聞き入れて貰えないので話しても時間のムダなんですよ」
「でも、俺にはする話しはないって言ってた
ニノだから話したんでしょ?」
「確かに翔さんに出来る話ではないですね」
「やっぱりニノの方が信頼されてるんだね…」
また、哀しそうな顔になってしまった。