第6章 君のために僕がいる
翔くんはしばらく俯いて考えていたけど、心を決めたように顔をあげ、俺を見つめる。
「…俺の望みはさっき言ったことだよ?
全部忘れたい
智くん、忘れさせてくれるの?」
忘れさせる?
どうすれば忘れられるんだ?
それがわかってれば最初からしてあげたのに、わからないから何もしてあげられてない。
「それができるならしてあげたいよ?
でもどうすれば…」
「…キスマークの時みたいに智くんが上書きして…」
翔くんの瞳が不安そうに揺れた…
「上書き?」
翔くんが小さく頷いた。
「あいつらにされたのと同じことを智くんがしてくれる?」
あいつらにされたことって…
さっきキスされたって言ってた。
翔くんは俺にそれを望むの?
「翔くんが望むならしてあげるけど、俺がキスしていいの?」
翔くんは再び頷く。
どう言うことだ?翔くんが俺とのキスを望むなんて、よっぽどあいつとのキスを消し去りたいのか…
俺は構わない、でも翔くんに新たな傷が増えることにならないのか?
躊躇っていると、
「やっぱり無理だよね…」
と悲しみを纏った瞳で笑った。
「ごめん、違うんだ
俺はいいよ?でも翔くんが大丈夫なのかなって」
「俺?」
「そう、だって男に襲われて怖い思いしたのに…
また嫌な思いさせちゃうんじゃないかなって…」
「それはないよ」
「ないの?」
「うん、ない
智くんなら大丈夫」
微笑んだ翔くんはとても可愛いかった。