第3章 ep Toru Oikawa
夜、あれは確か8時…いや、9時くらいだったかな?
あの日…
8月の連休の最終日1日前。
急に電話がかかってきたんだ。
本当に急な電話。
出たら出たで一方的な飲みの誘い。
俺の最寄り駅まで来るって言うから適当な白のワイシャツと淡い色のジーパンを履くと、財布と家の鍵、スマホを持って家を出た。
駅に着き、きょろきょろと周りを見れば女の子に囲まれ苦い顔をするメガネくん。
近づいていけば俺に気づいたメガネくん周りをいなして俺の方へ近づいてくる。
「すいません。急に呼び出して。」
「本当だよ。急すぎる!社会人として事前にアポとるのは大切なのにね。」
まあ、冗談だけどね。
でもその冗談を鵜呑みにしちゃうメガネくんはさっきよりしゅんとした顔になってカバンをぐっと握る。
「でも、今日はしょうがないから飲みに付き合ってあげる。優しいセンパイに感謝しなよ?」
そう軽く言うと俺はさっさと前を歩き出した。
後ろをメガネくんが付いてきていることを確認した俺はメガネくんに問う。
「メガネくん嫌いな食べ物は?」
「いえ…っていうかメガネくんって止めてください。」
「じゃあのっぽくん。」
「それもやめてください。」
じゃあ何て呼べばいいの?と聞くけど返答はない。
「じゃあ…
蛍ちゃん。」
にかり、と笑いながら答えれば、メガネくん…もとい蛍ちゃんはものすごく嫌そうな顔で俺を見る。
「及川さんさ、今日は焼き鳥の気分だから居酒屋に行くよー!」
「…はい……」
そう言って俺たちは駅前から店に向かって歩き出した。