第9章 「母さん」と呼ばない
俊side
兄ちゃんが母さんに本気で怒っていた。
その迫力に耐えきれず思わず涙が溢れ出てきた。
それに加え、母さんは僕の誕生日を覚えてなかった。
心臓が痛い。
部屋に戻ると兄ちゃんが僕をベッドに座らせる。
「俊……ごめん。怖かったよな……」
兄ちゃんは僕を抱きしめ謝る。
いつもなら安心して、涙も止まるはずなのに止まらない。
安心できない。
兄ちゃんが兄ちゃんじゃないみたい。
「うん……大丈夫……」
駄目だ、声が震える。
「大丈夫じゃねぇだろ。……ほんとごめん。我慢出来なくなってた。俊の誕生日覚えてないって考えたら頭にきて。」
兄ちゃんはいつも僕のことを思って色々言ってくれる。
さっきの母さんへの怒りもそうだって分かってる。
でも、怖かった。
兄ちゃんの顔を見ることが出来ない。
あの怖い顔をもう見たくない。
「俊、頼む……顔をあげてくれ。」
「……出来ない……ごめん……」
すると、兄ちゃんは僕の顎に手を当て上に向けた。
あ……兄ちゃんと目が合った。
でも、さっきの怖い顔じゃない。
いつもの優しい顔だ。
この顔……この顔だ……安心する。
そのまま兄ちゃんは僕にキスをする。
「……涙……止まったな。」
「あ……うん……」
「俊、お前はもう寝ろ。学校だろ?」
「うん。おやすみ。」