第9章 「母さん」と呼ばない
結城side
目が覚めたのは夜中の2時。
あのまま寝てしまっていたのだろう。
ガチャ……
玄関の開く音がした。
母さんが帰ってきたのだろう。
「う……兄ちゃ……?」
「俊、寝てろ。もう2時になっちまった。」
けど、俊は悲しそうな顔をする。
「母さん、帰ってきたんでしょ?ドアの音がした。」
「あ、うん。」
「……僕も下に行く。」
俊はベッドから降り、階段を降りていく。
俺も俊の後に続き降りた。
「……母さん……お帰りなさい……」
声が震えていた。
「……まだ起きていたの……」
「うん……あ、あのね!もう日付が変わっちゃったけど、僕ね……「はやく寝なさい……」……え……」
俊は俯き顔色が悪くなっている。
「っ!結城!退院してたの!?」
母さんは笑顔で俺に話しかけてきた。
けど、もう我慢が出来なくなった。
「母さん、今日、いや、昨日は何の日か覚えてる?」
「昨日?……さぁ……」
は?さぁ?
「……兄ちゃん……大丈夫だから……っ!」
そんな事を横で呟き服を引っ張る俊を振り払う。
「母さん!それ本気で言ってる!?だとしたら最低だな!俊の誕生日を覚えてないのかよ!」
「っ!俊の誕生日……」
今思い出したかのような顔……
俊が横で止めるがそれも無視。
「はっ……自分の息子だろ?!誕生日の日くらい覚えとけよ!どんなに仕事が忙しくても『おめでとう』くらい言えるだろ?!1年に1度しかない自分が主役の日だぞ!それを忘れるのかよ!」
「兄ちゃん……もういいから……」
俊は泣きながら俺を止める。
母さんは俺が本気で怒った事に驚いているのだろう、顔が固まっている。
「……息子の誕生日忘れる奴なんて『母さん』と呼べねぇよ……赤の他人だ。」
俺は俊を連れて2階に戻った。
俊は涙が止まらないのかずっと拭っていた。