第12章 穏やかな日々
胃袋を、満たした沙羅はそろそろモビーディック号に戻ろうかとマルコに声をかけた。
すると、マルコはニヤリと笑うと言った。
「午後は俺に付き合えよい」
そういうと、返事も聞かずに“また”沙羅の手を取って歩き出す。
再会してからというもの、マルコは外出先で二人きりの際、沙羅の手を離そうとしない。
最初は戸惑った沙羅も、きっとまたいなくならないか、そして騒ぎを起こさないか心配しているのだろうという結論に至っていた。
実際には、全く違う理由なのだが。
マルコに連れられて来たのは、落ち着いた雰囲気の服屋だった。
一人旅をしていた沙羅は次の島に合わせて服を調達し、要らないものはその島で処分する生活を送っていた。
当然、手持ちの服など皆無だ。
だが、“家”に戻った今、必要なのは洋服のバリエーションだ。
初めは、誰か意中の女性にプレゼントでも選ぶのだろうかと、内心胸がズキリとした沙羅にマルコは言った。
『次は冬島だ、好きなだけ選べよい』驚きつつも、買い物が好きなのは大半の女性と一緒。
何より、自分好みのシンプルで柔らかい色使いのお店だ。心躍らないはずがない。
スタンドカラーの白いコートに
内側がファーのブーツ。
カシミヤとシルク混の蕩けるような手触りのニットに、
柔らかいネックラインが女性らしいオフタートルのニット。
ボトムはウールのパンツに、ニットスカート。
マルコに連れられて来たお店は、少々ドキリとする価格ではあるが、一人で生きて行くために、賞金稼ぎもしていた沙羅には払えないことはなかった。
そして、自分の予算と誘惑の折り合いをつけ、一通り揃えた沙羅。
会計をしようとした所で、今まで特に口出しすることもなく、静かにその様子を眺めていたマルコが徐に声をかけた。
『沙羅、これ着てみろよい』と。
渡された“ワンピース”に戸惑いつつも、基本的にマルコに言われた事には素直に従う沙羅は着るだけならと袖を通した。
「マルコ、これは冬島には必要ないんじゃないかな?」
試着室から出てきた沙羅を満足げに眺めたマルコに対して、生地の薄さや色合いが春島向きのそれに不満顔の沙羅。