第12章 穏やかな日々
正直、淡藤色の色合いといい、程よいフィット感の上半身にフレアの膝丈のシルエットといい沙羅の好みだ。
しかも、リボンやレースと言ったディテールが一切なく、自然なサーキュラーラインを描く、そのシンプルな美しさは縫製技術の高さを伺わせた。
予算内なら即買いしたい程に気に入ったのだが、生憎、その“素敵な”お値段は少し無理をすればという額ではない。
むしろ、このワンピースにお金を使うなら、
迷ったコクーン型のチェスターコートか、
フード付の圧縮ウールのロングカーディガンを買うべきだろう。
そう思っての発言だったのだが、マルコは微かに顔を顰めた。
「気に入らねぇのか?」
「そうじゃなくて・・・」
せっかく選んでくれたマルコの気分悪くしたと思った沙羅は正直に理由を告げた。
すると、マルコは小さく溜息をつくとニヤリと笑った。
「おめぇ、トシの為に服一着だめにしたじゃねーか」
『隊員の不手際は、隊長の責任だよい』と言い切り、店員に二言三言話した。
すると慣れているのだろう店員は、着ているワンピースのタグを切り、先程会計しようとした商品の横に置いた。
さらに、店員は沙羅が予算外と諦めたチェスターコートとロングカーディガンを加えた。
驚いた沙羅をよそにマルコは店員に、これから外を歩くからと、ワンピースに合うに羽織物と靴を注文した。
手際よく濃紺のガウン型のコーディガンと、スウェードのブーティ、そしてタイツまで用意された沙羅は混乱のままに試着室へ促された。
出てきた沙羅を見たマルコは、コーディガンだけサイズを下げるように店員に伝えると、躊躇することなくそのまま会計を済ませてしまった。
そして、改めてサイズを合わせた沙羅を見ると微かに目を細め、店員に『悪いが荷物を全部届けてくれ』と伝え、手間賃を払い、店の外に連れ出した。
「マルコ、待って!」
店員の前で支払い云々で揉めるのはマルコの顔を潰すことになると(そこはお琴の教育の成果だ)黙っていた沙羅だが、うやむやにならないうちにはっきりさせたい。
ワンピースの事は了承したが、他は致していない。
だが、マルコは『好きなだけ選べと言ったよい』と取り合わない。