第12章 穏やかな日々
そのまま、抱きしめようとすれば恥ずかしさに頬を染めた沙羅が離れようと必死にもがく。
しかし沙羅の力など、マルコにとっては赤子の手を捻るほどに脆弱で、むしろ敵うと思って抵抗する沙羅が微笑ましくさえあった。
そうして、いとも簡単に自分の胸の内に閉じこめてしまえば、耳まで真っ赤にして固まってしまうのだから、尚更可愛くて仕方がない。
“もっと意識させたい”
自分が兄の中で特別な存在と思われているのはわかっている。
でも、欲しいのはその思いではない。
“もっと男として意識して欲しい”
親友のような、幼なじみのような立ち位置の自分。
だが、欲しい位置はそこではない。
自分は男で、沙羅は女。
それが大人になった今、どういう意味を持つのか気づいて欲しい。
“沙羅・・・俺のものになれよい”
そんな思いを込めて強く抱きしめれば、沙羅の口から漏れる声。
「うんっ・・・マルコ苦しい・・・」
はっと我に返れば、マルコの心を捉えて離さない瑠璃色の瞳が、苦痛を訴えていた。
反射的に手を離し、呼吸を確認するように頬から口元に手を這わそうとしたその手の上に、沙羅の手が重ねられる。
「大丈夫、もうどこにも行かないから」
「!!」
優しい笑顔を浮かべられて、諭すように言われてしまえば、もうマルコは手も足もでない。
純粋すぎる沙羅には、
マルコの邪な感情は微塵も伝わらなかったらしい。
それでも、その心を和らげようと思ってくれた行為が、気持ちがマルコにはどうしようもなく嬉しかった。
ささくれ立った気持ちが、すっと消えていく。
自分でも単純だとは思いつつも、それすらも心地良い。
そしてその様子を終始みていたクルー達もほっと一息。
あの鬼のマルコ隊長を、猫か何かのように宥めてしまう手腕は見事という他ない。
今後、何かまずいことが起きた時は沙羅からお願いしてもらおう心に決めたクルー達であった。