第12章 穏やかな日々
沙羅が再び家族となって、数ヶ月。賑やかな日々が続いていた。
『沙羅さん、この島は・・・』
『この島はね、・・・』
一人で旅をしていた沙羅の知識は若いトシには魅力的らしい。いや、魅力的なのは沙羅自身か。
マルコはそのやり取りを目の端に捕らえながら溜息をついた。
“気に入らねぇ”
そうは思えど、“トシ”という存在に強く出られない自身と、弟のように可愛がる沙羅に強く出ることもできず。
そして何より気に入らないのは・・・。
「沙羅、ちょといいかい?」
「はい、イゾウ隊長」
言いながら笑顔を浮かべ、イゾウの元へ向かう沙羅。
きっかけは部屋割りだった。
マルコとしては自分の隣の部屋、は無理にしても近くに部屋を空ける予定だった。
だが、“わざわざ誰か移動させるのは”と沙羅が難色を示した。
そこへ“たまたま”居合わせたイゾウが16番隊の部屋なら空いてると声をかけた。
そこからは“あれよあれよ”という間に話が進み、一番隊に所属させるはずが、イゾウの雑用係から、16番隊所属になり、その強さ、知識の広さ、人格、何よりイゾウとの相性がいいと、ついに16番隊副長になってしまった。
当然、マルコが沙羅といられる時間は減り、イゾウと沙羅の二人で過ごす姿が、日々目に入り面白くない日々が続いていた。
「・・・」
二人きりの姿など見たくない。ふんっと鼻を鳴らし視線をずらす。
これでは沙羅を手に入れるどころか、振り向かせるのもままならない。
そんなことを悶々と考えているマルコの顔は鬼のようで、巻き添えを食いたくないクルーは遠巻きに様子を窺うばかり。
と、そんなマルコの顔に影が落ちた。
「どうしたの?マルコ、顔が怖い!」
二階デッキに座り、手摺に寄りかかっていたマルコの口角を上げるようにぷにっと頬突(ツツ)く細い指。
確認するまでもなく、その高くて可愛らしい声の持ち主は沙羅で、自分にこんなことをするの沙羅しかいない。
だが残念ながら逆光で、その顔は見えない。
“さて、どうしてくれようか”
マルコは全く表情を変えずに、自分の頬を突いたままの沙羅の手首を引っ張った。
「あっ・・・」
小さく上がる悲鳴とともにバランスを崩す沙羅を簡単に抱き止める。