第11章 逃がさねぇよい
刺激される視界と思い出した感触に、マルコは雑念を振り払うかのように、首を鳴らし視界をずらした。
焦るな。
欲しいのは体ではない。
体だけなら魅惑的な女が手招きする場所へ行けば事足りる。
沙羅の心が欲しいのだ。
マルコは自分に言い聞かせた。
とはいえ、6年という年月(トシツキ)は少女だった沙羅を女へと変えていて、どうしようもなくマルコを誘惑した。
それでも力を抜くように息を短く吐き、かけかけだった布団を沙羅かければ、自分の欲望も抑えこむ。
「・・・」
やっと、再会したのだ。
目の前で眠る沙羅を見て改めて実感する。
生きていてくれた、それだけで嬉しかった。
6年前は、お互いにまだまだ子供で、“守りたい”思いと、“守れない”現実の狭間で常に足掻いていた。
しかし、今、マルコは世界最強の海賊団、白ひげ海賊団の一番隊隊長を任せられ、その名を知られるまでに成長した。
もちろん自分が一番強いなんて思ってはいない。
強くなればなるほど、更なる高みがあるのだと、思い知る日々だ。
“強くなるには人生、死ぬまで学ばなくては”
マルコの心に深く残る歳三の言葉。
奢ることなく、その強さを磨き続けているマルコ。
その通り名は不死鳥マルコと恐れられ、知らぬ者などいないだろう。
自信もついた。
実力もついた。
最早、押しも押されもせぬ、
白ひげ海賊団、一番隊隊長不死鳥マルコだ。
“沙羅・・・”
静かに眠る沙羅の美しく艶やかな黒髪を、そっとすくい上げた。
“もう、待たねぇ”
ニヤリと笑みを浮かべ、すくい上げた髪に唇を寄せた。
微かに香るシャンプーの香りに、心が躍る。
“逃がさねぇよい”
この触れている髪も
美しくも可愛い寝顔も
その身も心も
全てを手に入れてやる
だけど、
今は・・・
安心して休んで欲しい。
「お休み、沙羅」
黒髪にもう一度口づけすると、マルコは部屋を後にした。