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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第10章 香りは導く


 呆気にとられるトシをそのままに、女は様子を伺っていた店主に言った。
「キャンセル料、全額じゃないですよね?」
「・・・は、半額で・・・」
「半額?彼、怪我をしたのに?」
女の目が、剣呑とした光を放った。
「さ、三割で・・・」
すると、満足したように女は笑い言った。
「じゃ、その請求書を東の湾内止まっている“白ひげ海賊団”に届けていただけるかしら?」
口調は丁寧だが言っている内容は穏やかではない。
最早泣きそうになりながら、返事をすると逃げ出すようにカウンター裏に入ってしまった。
それを確認した女は、トシを振り返ると無言で手当て仕始めた。
「あ、あの、ありがとうございます」
黙々と手を動かす女の反応はない。
だが、人懐っこいトシはめげずに、いや、空気を読まずに話しかけた。
「白ひげ海賊団知ってるんですか?」
「・・・」
「あ、俺一番隊のトシって言います」
すると、女の手がぴくりと止まった。
始めて、女とトシの視線があった。
「「・・・」」
トシはぼぉ~と女の瞳を見つめた。
見たことのない不思議な色、瑠璃色の瞳が自分を見つめている。
落ち着いた雰囲気の中にどこか危うさを感じた。
自分と比べるまでもない強さを持っているのに、どこか儚げで、泡になって消えていきそうだった。

“抱きしめてあげたい”

衝動的にそう思った自分に恥ずかしさを覚えたトシは、バッと視線をずらした。
そんなトシの耳に届いた女の声。
「トシ・・・」
「?」
その反応は“どこかで”感じたことがあった。
思い出そうとするトシの耳に『私は“ユエ”です』と名乗る声が聞こえた。
「ユエさん?」
頷く“ユエ”にトシはもう一度聞いた。
『白ひげ海賊団を知ってるんですか?』と。
だが、ユエはそれ以上応えることなく手を動かした。
トシの傷は深くはないが数が多く、持っていたガーゼが足りなくなったらしい。
ユエは、躊躇なく自身の服の裾を裂き、血の滲むトシの腕に巻いた。
「す、すいません、服・・・」
謝るトシには応えず、ユエは紙に何かを書くと手渡した。
「ここなら、大人数でも対応できるから」
「え?・・・あ!」
「話は通しておくけど、断られるようなら、私の紹介と言って」
それだけ言うとお礼をと引き止めるトシを無視して去っていってしまったユエ。
それと入れ違うように、『トシ!!』と自分を呼ぶ声がして、トシは声の主を振り返った。
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