第7章 それからの一年
次の日の朝。5月11日。
マルコやサッチと朝ごはんを食べ終えた沙羅はお琴の部屋に向かった。
いつも早起きのお琴が珍しく、起きてこない。
『買い物で疲れたんだろ、ばあさん』
本人を前には絶対に、言えないサッチの悪態を聞き流し部屋に向かった。
トントントンと扉をノックするも応答はない。が、もともと、歳三とお琴の部屋内にベッドだけはと、簡易な仕切りを入れただけの部屋にいる沙羅だ。
“勝手知ったる“なんとやら。躊躇することなく部屋に入り、声をかけた。
「お琴さん、おはよう!」
よく眠っているのだろう。微動だにしないお琴に近づく。
カーテンを開ければ、朝日が差しこんだ。
「朝ご飯なくなちゃうよ!」
眩しさに目を細めながら振り返り、お琴を起こすために、触れようとした。
“?!”
そこで、ふと、違和感を覚えた。
朱の艶やかな着物を纏っているお琴。
その顔はいつもよりも、念入りに化粧が施されている。
いつもなら、淡い色の寝間着に、念入りにスキンケアされた素肌のまま眠っているはずだ。
ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
「お琴さん?」
朝日に照らされた顔は、“人形のように”美しい。
穏やかに閉じられた目元に、
鮮やかな紅が華やぎを添え、
その口元はとても幸せそうに結ばれている。
「・・・お琴さん?」
微動だにしない、美しい寝顔に沙羅は震える手を伸ばした。
ひやりと、した。
「・・・っお琴さん!!」
無我夢中でお琴に縋りついた。
気が触れたように、何度も何度も名前を呼んだ。
だが、穏やかに閉じられた目が、
艶やかな笑みを湛えていた口元が動くことは、
決してない。
「・・・ッア・・・~~~!!」
そのただならぬ様子に、たまたま通りかかったジョズとビスタは異変に気づいた。
「沙羅?!」
扉を開ければ、お琴の眠るベッドの下に崩れ落ちる沙羅。
咄嗟にジョズが肩を支えた。対するビスタはすぐにマルコの元に走った。
残されたジョズは、身動き一つしないお琴を見て、気づいた。
「何があった?!」
思わず強い口調で問いただす。
次の瞬間、船が、巨大なモビーディックが大きく揺れた。