第7章 それからの一年
“身も心も預けられる相手”
マルコは強い、が、お互いまだまだ上には上がいる身だ。
でも、マルコはどんな状況でも必ず守ってくれた。
白ひげや歳三のような絶対的な強さではない、それでも心から信頼できた。
それが、お琴の言う“相手”なのだろうか。
よくわからなかった。
“全てを受け止めて支えてくれる男”
自分の力を自然に受け入れてくれたマルコ。
でも、もし、私が海神伝説の一族と知ったらどうするのだろうか。
世界政府、無論それに属する海軍からも、そして海賊からも恐れられ、狙われている母と自分。
白ひげは全てを知った上で、家族のように接してくれている。
マルコと出会った“あの”日。
沙羅は海に思念を通わせ、海を人形(ジンケイ)に変え、白ひげに連絡を取った。
『金髪のお兄ちゃんをお預かりしています』
突然自室に現れた、明らかに人外に見える自分に、白ひげは驚きもせずに言った。
『グララララ~、面白ぇのが来たじゃねぇか』
『おじ様、恐くないの?』
『あぁ?ユエの娘が恐ろしいもんか』
『でも私、海神の一族だよ?』
『どんな血を引こうが、人間みんな海の子だぁ』
“皆と同じ”その言葉は沙羅に衝撃を与えた。
見た目が、伝説通りの母から生まれた、一族の伝承通りの力を持った自分。それを異常に心配する母。
心のどこかで、自分は人間ではないのかもしれないと恐れていた。
だが、白ひげは何てことのないように笑い飛ばした。
そして、
『息子に伝えてくれ、大人しく待ってなぁ』
ニヤリと笑った顔は今も忘れられない。
沙羅はそんなことを思い出しながら、マルコも変わらずに受け入れてくれるだろうか?と不安げに瞳を揺らしながら見上げた。
すると、急にマルコの瞳が沙羅に向けられた。
“どうした?”
目で問われれば、『何でもない』と小さく首を横に振り視線を外した。
マルコは、勘がいい。自分のちょっとした変化にもいつも一番に気づいてくれる。
それでいて、不必要に干渉せずに見守ってくれるマルコ。
そのあまりの居心地の良さに、気がつけばいつも一緒にいることも多い、“特別な”友達。
11歳まで両親以外の人とほとんど接する事のなかった沙羅。そのため対人関係を計る能力は些か乏(トボ)しい。
マルコの気持ちにも、自分の気持ちにも気がつくには、まだ時が必要だった。
