第6章 5月11日
「やめておこう」
「?!」
「美しい娘だ、傷つけるのは惜しい」
その言葉に苛立ったマルコは、掴まれた拳に力を込め解放しようとした。
だが、ガイムは更なる力でマルコを押さえ込む。
「代わりに・・・」
ガイムはマルコにもわかるように沙羅を見た。
つられて、マルコも沙羅を見る。
その隙だらけの耳元にガイムは笑いながら告げた。
「お前の前で・・・」
マルコの視線がガイムに戻る。
二人の視線が重なった。
いつの間にか人間に戻った顔にまたニタリした笑みが浮かんだ。
「犯してやろう」
「!!」
頭の中が真っ白に、なった。
幸か不幸か、
ガイムの強さがわかるほどには強くなり、
されども、ガイムと一戦を交えるほどには、まだ自分が強くないのはわかっていた。
マルコの顔が凍りついたように固まり、次いで・・・。
怒り打ち震えるだろうか?
それとも絶望に打ち拉がれるだろうか?
ガイムはぞくぞくとした高揚感に体をうねらせながら、マルコの表情が、変わるのを待った。
しかし、強くなったのはマルコとサッチだけではなかった。
「マルコから離れて!!」
抜き放たれた剣が、マルコを拘束していた腕を掠める。
ガイムは手を離すと、間合いを取った。
マルコも我に返り、拳を構え直す。
何をしてるんだ、支え合える家族がいると沙羅に教えたのは自分だというのにと、マルコは自分を叱咤した。
そしてそのまま、沙羅の横に立ち、ガイムを睨み上げた。
その、二人が並び立つ光景にクルー達の士気が上がる。
押され気味だった戦況が変わる。
いや、変わるかと思われた。
だが、やはりガイムは百獣のカイドウの腹心だった。
ニタリ、とまたしても笑うガイムの視線がマルコの目を射貫いた。
“!!”
ぞくり、背筋を悪寒が走る。
マルコは咄嗟に沙羅を抱えて飛び上がった。
ジュワッ・・・今までいた場所が溶け出す。
一部では、世界最凶とも言われる毒蛇、ブラックマンバ。能力者のガイムはその毒性をさらに強化することができた。
触れれば、ただではすまないどころの騒ぎではないだろう。
「・・・」
マルコは、力の入った体をほぐすように短く息を吐いた。