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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第6章 5月11日


 それから、幾度となく獣の襲撃を受けるもマルコ達は、何とか目的地までたどり着いた。
朽ちた木や、大きな岩が転がってはいるが、洞窟だとか泉だとかそれらしいものはない。
「掘るのか?」
「岩の下とか?」
口々に言うクルー達。
「どうする?」
サッチも頬を、搔きながら苦笑気味。
無論、マルコも同様で、苦笑を浮かべかけ、気づいた。
沙羅がいない。つい今し方まで隣にいたはず。
マルコはバッと振り返り視線を巡らせた。
沙羅は、少し先にいた。
陽もほとんど差し込まない、特に鬱蒼と生い茂る木々の中を歩いていく。
「沙羅!」
マルコはサッチに後を頼み、沙羅を追い掛ける。
呼び止められた沙羅は、振り返ってマルコを待った。
「一人で行くんじゃねぇよい」
「ごめんなさい」
「なんか聞こえんのか?」
少し困った顔に、直感したマルコが問えば、頷く沙羅。
「海の声に似てるけど、海の声じゃないの」
何の戸惑いもなく繰り広げられる会話。
マルコだけが、沙羅の力を知っていた。
もちろん一度だとて、沙羅の不思議な力について問い詰めたことはない。
一緒に過ごしていく中で、海の声が聞こえる事、海や水を操れることをごく自然に知り、受け入れただけだった。
沙羅も、自身の力について語ったことは一度だとてない。
ただ、マルコが当たり前に接することで、沙羅自身もマルコだけは知っていることが当たり前になっていた。
「この辺り何だけど」
足を少し進めても、変わらず鬱蒼と茂る木々と巨岩。
沙羅は躊躇なく小さな岩を足がかりに巨岩に登る。
「・・・」
マルコは“やれやれ”と苦笑し追い掛ける。
体つきは少し女らしくなったとは言え、中身は変わらないらしい。
微笑ましくもあり、悩ましくもある沙羅にいつも振り回されるマルコ。
だが、そんな沙羅だからこそ愛しいのだろう。

“もう少し、もう少し大人になるまで待ってやりたい”。
まだ、恋を知らず、男をわかっていない沙羅。
せめて、彼女が自ら好きという感情を知るまで、
(願わくばその相手が、自分でありたい)
もう少し待ってやりたい。

マルコは、巨岩に登り、自分に向けて手を振る沙羅を眩しそうに見上げた。
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