第6章 5月11日
不気味な声に意識を向けていた沙羅は反応が遅れた。
が、沙羅が声を上げるより早く、マルコの手が沙羅の腰に回され、そのまま飛び去った。
【ニクヨコセ・・・】
巨大な猿のような生き物が三頭。
今まで沙羅がいた場所に、降り立った。
【ウマソウ、ソイツ】
血走った目が沙羅だけを見る。
「若い女の肉が、大好物な食人猿だ、気をつけなさい」
歳三だけが、暢気に言った。
「歳じぃ!どう気をつけんだよ!!」
サッチが突っ込みつつも、食人猿を見据える。
「道理で沙羅に集中したわけだ」
納得したように言うジョズはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「沙羅、離れんじゃねぇぞ」
マルコの目に剣呑とした光が宿る。
“誰であろうと沙羅を傷つける奴は許さねぇ”
ダダダッと走り寄りながら、最初に仕掛けたのはジョズ。
その巨体から信じられないスピードで一気に間合いを詰める。
「さてと、やるか」
置いてきぼりをくらったサッチは、呑気に言うも一瞬で空中に飛び上がり、双剣を振り下ろす。
一気に乱戦状態となる。
マルコ、サッチ、ジョズが各々三頭の猿と対峙し、クルー達が加勢する。
歳三だけが一人楽しそうに眺めていた。
マルコの繰り出す拳が巨大な猿の腹を捉え、それでも動く猿が、マルコを捕まえようと腕を伸ばす。
だが、それを交わしながら空中を反転し、回し蹴りを叩き込む。
ジョズが猿にスープレックス(*)を決め、サッチの剣が猿を切り倒した。
吹っ飛ぶ猿に、上がる歓声。
“甘いな”
勝利に気を緩めたクルー達を他所に歳三が、剣を抜こうとした。
ドゴォッ!!!!
肉と骨がぶつかるような鈍い音が響いた。
「簡単に、沙羅は、取れねぇよい」
背後から忍び寄った一際大きな猿が、マルコの一撃で沈む。
“““!!”””
サッチやジョズはもちろん、歳三ですら驚愕した。
まさか、気がつくとは思わなかった。
ましてや、一撃で倒せるなんて思いもしなかった。
“ここまでとは”
歳三は驚きつつも、満足そうに笑った。
自分との修行とは別に、密かに鍛錬しているのは知っていた。
どうやら歳三を越えるのも夢ではなくなってきたようだ。
弟子の成長に、喜びを密かに噛み締める歳三であった。
*プロレスの投げ技の一種