第27章 幸せにおなり★
意図的に狙ったわけではない。
ただ、ほんの少しだけ沙羅が喜んでくれたら、
その程度の期待だった。
気を失なった沙羅を抱えて、宿を探せば、崖の上に建つ小綺麗な宿が目についた。
他の者であれば退路がない、と避ける場所かもしれない。
が、マルコと沙羅には好都合の立地だ。
海に面した部屋を希望すれば、
『夕暮れの景色がお勧めですよ』
と案内された部屋。
沙羅をベッドに寝かせて、見るとはなしに海の方を眺めた。
『・・・』
まだ夕暮れには早い太陽が煌めくその眺めに、
マルコの瞳は奪われた。
そうして、待ちに待った夕暮れ時。
茜色に染まる世界。
それを眺めて、幸せそうに笑う沙羅がどうにも愛おしくて、可愛くて。
“触れたい”
激しい欲情ではなかった。
けれど触れたいと欲する感情は、やはり欲情に類する物。
そんな思いのマルコの目の前で、沙羅が目蓋を下ろせば、二人の唇は自然と重なった。
マルコの唇が、沙羅の唇を軽く食めば
沙羅は口を小さく開く。
あっさりと侵入した舌は、沙羅の舌を存分に食す。
マルコの左手が艶やかな髪に指を絡めながら、後頭部を支え、右手は腰を引き寄せて互いを密着させる。
「・・・ッン」
漏れ出る声は、決して否ではない。
「ッ・・・ッ・・・っん・・・」
深くなっていく口づけに、沙羅の体が弛緩していく。
「・・・」
茜色とは違う暖色に染まっていく表情をじっくりと眺めながら、マルコはその全てを、“変化”を感じていた。
最初は、
呼吸の仕方も知らず、されるがままだった沙羅。
体は緊張に強ばり、震えていた沙羅。
昨日とて震えてはいないが、欲を引き出すまで沙羅の体は強ばっていた。
それが、唐突になくなった。
まるで、マルコが何を欲しているのか、次は何をするのかわかっているかのように沙羅は自然とマルコの愛撫を受け入れ始めていた。
“あ~・・・、やばいねぇい”
それがどういう意味かわかってしまったマルコは、吹き出しそうになる欲情を押さえながらも、感情がじわりじわりと高まるのを自覚した。