第27章 幸せにおなり★
細い目をさらに細めながら、マルコは口元を覆った。
『マルコは昔から物知りだよね』
『勉強したんだよね?すごい』
『どうしたら、マルコみたいになれるかな』
本人にそのつもりはないのだろうが、次々と出てくる賛辞の言葉にマルコの顔が熱くなる。
『隊長になっても変わらないね』
隊長になっても驕らず、マルコは高見を目指し続けていた。
とはいえ、それは表立って行ってはおらず、声高に言うことでもないとマルコは思っていた。
その為、大抵のクルーはマルコは能力者で、才能があり、元々が違うと言われていることもマルコは知っていた。
だからまさか沙羅からそう言われるとは思ってもいなかった。
「あ~、・・・沙羅」
これ以上はいろいろな意味で耐えられない。
高揚する気持ちに比例して、熱を帯びる体。
それを静めようとしたマルコに止めの一言。
「そういう所もすごく好き!」
「っ・・・」
もう、限界だった。
赤面した表情を片手で覆い、心の中で深呼吸した。
ここが、モビーディックの中なら、
今すぐに自室に連れ込んで、求めただろう。
だが、ここは様々な商店が立ち並ぶ道沿いで、目立つわけにもいかない旅だ。
“・・・っくそ、可愛いすぎだよい”
自分を欲情させたのは愛する女で、
しかも目の前にその愛する女がいて、
互いに思いも通じているのに、
欲情してしまったこの体をどうすることもできない、“今に”マルコは心の中で悪態をついた。
「マルコ?」
無言で顔を隠してしまったマルコから苛立ちのようなものを感じた沙羅は不思議そうに声をかけた。
その声はもちろんマルコにも聞こえたのだが、今は反応を返すことができない。
どうしようもなく欲情した顔を、見せるにはまだ沙羅は精神的に未成熟だ。
ハレム島の時のように、怖がらせてしまうかもしれない。
さりとて、少しでも体を動かせば、手を出してしまう。
身の内に荒れ狂う激情を押し殺すように、マルコは深く、けれども沙羅に気づかれないようにゆっくりと息を吸うと、そこで一瞬止めた後、またゆっくりと吐き出した。
「あんまり、煽るんじゃねぇよい」
本当は余裕などない。
だが、それはどうしても気づかれたくなくて、口の端に笑みを浮かべ、わざと屈んで顔を近づけて諭すように言った。