第26章 牙を剥く悪魔
「・・・恐いの?」
サッチの冷たい声が部屋に響いた。
震えが収まらない沙羅を、
サッチはじっと、見下ろす。
「恐い?」
再度繰り返された問いに沙羅は辛うじて、頷いた。
いや、頷いたのか震えていただけなのか判別つかないほどに沙羅は恐怖に体が痙攣していた。
「・・・だったら、行くな」
サッチの目に激しい怒りが灯った。
「泣くほど、恐ぇくせにゾイドのとこになんて行くな!!」
そう怒鳴ったサッチは、沙羅の体にタオルをかけると、音をたてて部屋を後にした。
沙羅の部屋を後にして、少し離れた所でサッチは壁を背に深い、深いため息をついた。
やってしまった。
こうならないように、ずっとずっと、自分の気持ちを上手く隠してきたのに。
まさか、自分が沙羅を襲うとは。
サッチの心は深い後悔に沈んでいく。
「・・・」
「そう、自分を責めなさんな」
が、すぐにかけられた声にサッチの思考は途切れた。
「い、イゾウ・・・まさか・・・」
サッチの心底動揺した表情を、いつもの含み笑いではなく、少し困ったように笑った。
「お前さんがやらなきゃ、俺がやったさ」
瞬間、サッチはズズッと壁を滑り落ちた。
「勘弁しろよ、俺はマジでヤバかったんだからさ」
「そうかい?俺には充分理性的に感じたが」
イゾウがサッチに合わせて屈みこんだ。
「泣いてんのに、すぐやめられなかった」
「・・・」
「あのまま・・・っ・・・」
サッチは言葉を詰まらせた。
イゾウも、なにも言わなかった。