第26章 牙を剥く悪魔
それから数日。
サッチは、自室に引きこもっていた。
初めはいつも通りに、キッチンで采配を振るおうとしていたのだが。
目を充血させ、土気色の表情のサッチに回りから否がかかった。
言われるまで、自覚はなかったが、かなり迷惑をかけていたらしい。
何もしたくない。
いや、何をしたらいいのかわからない。
沙羅に謝らなくては、と思うがきっと自分の顔を見るのも嫌だろう。
自分を信頼し任せてくれたマルコにも謝らなくてはと思うが、あいにく本人はモビーにいない。
いっそ、黙ってモビーを降りるべきではないか、とまで考えていた。
「・・・?」
そんなサッチの耳に届く、扉を軽くノックする音。
こんな時、他の者なら居留守を決め込むところだ。が、ここで反応するのがサッチだった。
「開いてる」
ぶっきらぼうながら返事をすれば控えめに扉が開いた。
そこから覗いた顔にサッチは驚愕した。
「沙羅ちゃん?!」
慌ててベッドから飛び起き、が、そこで足を止めた。
ほんの僅か、いや、微かに、沙羅が身構えた気がしたからだ。
「・・・」
「・・・」
二人の間に微妙な沈黙が流れた。
何か言わなくては、と思うが、思えば思う程、
言葉が出てこない。
と、ドアが大きく開いた。
次いで、戸惑うように差し出されたのは綺麗に畳まれた黄色いスカーフ。
「!」
サッチは目を見開いた。
それは間違いなく自分の物で、
そして、先日沙羅の腕を縛り拘束した物。
言うなれば、乱暴の証のような物だ。
「・・・」
サッチは息を飲んだ。
緊張に体が震える。
ベッドから扉までの僅かな距離が異常に遠く感じた。
一歩、また一歩と動かす足は鉛のように重い。
それでも、現実の距離は近い。
気がつけば無意識に、サッチの手が、黄色いスカーフを掴んでいた。
瞬間。
「?!っ・・・☆☆☆」
がっ・・・と鈍い音とともに、
サッチの視界に火花の用に星が散った。
倒れなかったのは、さすが隊長というべきか。
それとも沙羅の気持ちの表れか。
「・・・馬鹿ぁ!・・・」
「沙羅・・・ちゃん」
あまりの痛みに頬を押さえながら、サッチは涙を流した沙羅をただただ眺めた。
そんなサッチの頬を、今度は冷んやりとした柔らかい感触が包み込めば、消え去る痛み。