第26章 牙を剥く悪魔
「・・・確かに、狙われたのはマルコだと思う」
ベッドに腰かけたまま、サッチは逡巡するようにまた深く息を吐き、ぽつり、ぽつりと話し出した。
「けどさ、誰が狙ってるかはわからない」
「ゾイドかもしれない!」
ゆっくりと言葉を選ぶサッチと対象的に、早口な沙羅。
「俺達は海賊だ、ましてやマルコは一番隊の隊長だ」
「でもっ」
「沙羅ちゃん」
そこでサッチは苦しそうに沙羅を見つめた。
「マルコは・・・、俺達は賞金首なんだよ?」
「・・・賞金首と付き合う覚悟が、足りないって、こと?」
瞬間、サッチの目が見開かれ、次いで苦渋に満ちた表情を浮かべた。
「そうじゃない、・・・そうじゃ・・・」
否定の言葉は弱く、僅かに沙羅見つめた視線はすぐに伏せられる。
そのまま、繰り返された言葉は床へと消えた。
ただ、
単純な事実として言っただけだった。
白ひげの右腕として、その名を知られたマルコが狙われやすい立場だと。
わかっている。
いつもの沙羅ならば、こんなやり取りにはならないことも。
わかっている。
自分には沙羅を支える力はない。
マルコがいないからこその不安。
だからこその、不安定。
不安定故の、ネガティブな考え方。
誰のせいでもない。
マルコが狙われたのも。
沙羅が、卑下した考えをしてしまうのも。
それをどうすることもできない自分も。
ただ、そんなサッチの態度を見れば、
沙羅がどうするか。
それをサッチは失念していた。
気がついた時には、耳元に別れを告げる声。
恐らく、その前に、
何か声はかけてくれていただろう。
『サッチ、また会えてよかった』
スローモーションのように沙羅が目の前を通っていく。
“だめだ”
ゾイドだけはだめだ。
『皆に伝えて、ありがとうって』
“だめなんだ”
『・・・ごめんね』
“あいつだけは、だめなんだ”
「行かせないよ」
いつも、
大鍋を振るう、
サッチの大きな手が、
去っていく沙羅の腕を、
捕らえた。