第26章 牙を剥く悪魔
「どうしたの?」
答えのわかりきった質問にもかかわらず、サッチは答えを求めた。
が、沙羅は首を振り『ごめんなさい』と小さく謝るばかり。
サッチが宥めたり、茶化したりしても返ってくる答えは謝罪ばかり。
結局、サッチは引き下がるしかなかった。
去っていく後ろ姿を見送りながらイゾウが言った。
「よくねぇな」
「わかってるよ」
サッチがふてくされたような声で返した。
沙羅は昔からサッチには素直な質だ。
それは長年、兄として、そして悪友として接してきたサッチだけの特等席。
そんなサッチと、つい最近まで同じ隊の隊長と副長の関係だったイゾウ。
そのどちらにも何も話さないのは、無意識の拒絶。
自分の殻に閉じ籠り、思い詰めている時の沙羅に見られる状態だ。
今の沙羅の頭の中は、先日のゾイドの言葉が絶えずに聞こえているであろうことは容易に想像がついた。
「ックソ、どうしたらいい?!」
苛立ったサッチは、拳をモビーディックに叩きつけた。
「・・・言ってわかるなら、マルコがとっくに説明してるさ」
表情と声は静かなまま、船縁に煙管を強くはたいた。
「姓奴隷だぞ!何で?!」
冷静なイゾウに、サッチが珍しく食って掛かった。
「・・・生娘だからねぇ、わからないだろうさ」
「!・・・」
イゾウの言葉に、急にサッチが押し黙った。
「・・・だよな、やっぱり、そう、だよな」
イゾウに話しかけるでもなく、自身に確認するようにサッチが言葉を紡いだ。
「サッチ?・・・お前さん・・・?」
何事か深く思い詰めた様子で去っていくサッチの背中を、イゾウの声が流れ落ちた。