第26章 牙を剥く悪魔
ライと女達を荼毘に付してから数日。
モビーディック号は悪魔王ゾイドが根城にしている島を目指していた。
その間(カン)、ビスタの指摘した通り、沙羅は何度も、ゾイドの元へ一人向かおうとしていた。
その度に
マルコに気づかれ、
イゾウに叱られ、
サッチに泣きながら抱きしめられた。
(無論、サッチはその後マルコに蹴られたが)
それでも、ゾイドの放った呪いのような言葉は、
確実に沙羅を蝕んでいた。
そんな張り詰めた日々の中、
小さなトラブルからマルコが近くの島に単身、飛ぶこととなった。
「気をつけろよ」
「悪いな、こんな時に」
沙羅の心が不安定な事を知る者は、心底申し訳なさそうにマルコを見送る。
それに対してマルコは、小さく反応するに留め、
だが、イゾウとサッチに視線を送った。
『頼んだよい』
その視線にイゾウは目を微かに細めて返し、サッチは親指を立てる。
「沙羅、行ってくるよい」
「行ってらっしゃい、マルコ」
浮かぶ笑顔に陰りがあるのは、毎晩悪夢に魘されているからだとマルコは気づいていた。
だが、今は自分以外に自由に動ける者はいない。
「・・・沙羅」
「?」
マルコの声に呼ばれるように沙羅は一歩足を踏み出した。
「・・・っ」
息を詰まらせ口元を覆い、真っ赤になった沙羅にマルコは満足そうに笑う。
一瞬の静寂。
次の瞬間、回りから茶化すように口笛や叫び声が上がった。
「大人しく、待ってろよい」
そう、言い残すと蒼い光が空に舞った。
「だぁーーーーーーー!!見せつけやがって!」
サッチが自慢のリーゼントを抱えながら叫ぶ声が響き渡った。
イゾウは僅かに表情を歪め、が、それ以上、反応は示さなかった。
ただ、マルコが飛び去った跡を思い詰めたように眺めている沙羅をちらりと見ていた。