第26章 牙を剥く悪魔
『俺は君が欲しい』
「相手にするなっ!沙羅!!」
思考が停止したように固まった沙羅を、マルコが電伝虫から離そうとする。
『沙羅が俺の物なれば他の女に用はない』
「沙羅ちゃん!聞くな!」
サッチが沙羅の耳を塞いだ。
だが、透き通るようによく通るゾイドの声は沙羅の耳の中で呪いのように響いた。
沙羅が、
俺の物になれば、
母親の足も返してやる。
沙羅が、
俺の物になれば、
白ひげも戦争をしなくてすむ。
『沙羅、君が俺の物になれば』
「通話を切れっ!!」
イゾウが怒鳴りながら照準を合わせた。
『誰も死なない』
がちゃ。
イゾウが引き金を引くよりも早く、ゾイドの顔をした電伝虫は目を閉じた。
「・・・」
表情が凍りつき、人形のような表情となった沙羅。
「沙羅」
「沙羅ちゃん」
呼ばれているのは、わかっていた。
だが、どこか他人のように自分の名前が耳を通り過ぎる。
“ワタシノ・・・代ワリ”
何かに取り憑かれたように沙羅は台の上の女の体に触れようとして、
が、そこで沙羅の意識は途絶えた。
「イゾウ!」
沙羅の首筋に手刀を落としたイゾウを責めるに責められず、憮然とした様子で気を失った沙羅を受け取るマルコ。
「嫌な感じだね、こっちの弱いところをついてくる」
ハルタが眉を潜めながら、気分を害したように言った。
「気を引き締めねば、ゾイドに慈悲は通用しない」
髭を整えるとビスタは、自身のマントを台の上の女にかけた。
「マルコ、沙羅ちゃん・・・」
「わかってる」
「当分目ぇ離すんじゃねぇよ」
サッチが濁した言葉を、イゾウが言い切った。
「皆で監視するしかないね」
「うむ、海の上では沙羅は自由だからな」
ビスタの言葉に皆が頷けば、後は去るのみ。
モビーディック号に戻ったマルコ達は、白ひげに報告をし
女達の遺体を船ごと荼毘(ダビ)に付すことにした。