第26章 牙を剥く悪魔
その眦に滲むのは怒りか、悲しみか。
じりりとイゾウの、足が一歩動いた。
「・・・やりやがったな」
ゆらゆらと地の底か響いてくるようなイゾウの声。
その視線の先には、変わり果てた姿のかつての部下、ライが立たされるように凍らされていた。
その前には、
雪や氷に埋もれた無数の黒髪の若い女の死体。
そのすべてが左膝から下が切り取られていた。
全裸の者、
切り裂かれた服のままの者、
女達が何をされたのかは言わずもがな。
その中で、生贄のように一段高い台に横たわる女の体。
体中についた鬱血痕、手痕。
縛られたのであろう縄の痕。
大きく開かされたまま固まった両足。
その体の首から上は、己の変わり果てた姿を見つめるように台の上の氷塊に置かれていた。
その顔は恐怖に歪んでいる。
そして、
その代わりに、
体の上に置かれた物。
沙羅の、顔写真。
「・・・」
イゾウが視線だけをマルコに向ければ、その瞳には怒りの炎が燻る。
そしてマルコの腕には、痙攣したように体を震わせている沙羅。
無理もないことだろう。
幼い頃から世の中の裏側をよく知る自分達ですら気分を害するのだ。
沙羅は新世界を一人で生き抜いた女だとはいえ、根は普通の女だ。
ましてや、同じ女で、さらに写真まで置かれれば感受性の強い沙羅には酷な光景でしかない。
“胸くそ悪いねぇ”
イゾウは心の内で毒づきながら、音を立てずに写真を無言で取り下げた。
と、
プルプルプル・・・プルプルプル・・・
どうせどこからか見ているのだろう。
誰もが予測していたが、
案の定、タイミングを計ったようにどこからか、
電伝虫がなった。
「・・・」
音に近いビスタが視線を巡らせればすぐに見つかる、“それ”。