第26章 牙を剥く悪魔
隊長達と戦闘力の高いクルーの少数精鋭が船に降り立った。
降りた瞬間に船が爆発することも考えていたが、船は変わることなく不気味な軋みをたてながら波間を揺れる。
モビーディック号のような巨大な船ではないが、船内にはいくつかの部屋に分かれていた。
「人っ子一人いないね」
「過分に綺麗にされているな」
ハルタとビスタが口々に発する。
「音もしねぇな」
マルコは沙羅が夢の中で聞いていた音が今にも聞こえるのではないかと思っていたのだが、船内はひたすらに静かだった。
「寒いな」
船内にまで入り込む雪にハルタが肩を縮めた。
その雪をマルコは目を細めて眺め、そこで足を止めた。
「サッチ?どうしたよい?」
いつもは多弁なサッチが、船内に入ってから一言も発しない。
「・・・」
声をかけられたサッチはしんがりをハルタに頼むと、先頭を行くマルコに並んだ。
「臭うんだよ」
「・・・」
マルコは無言で先を促す。
「冷凍した古い肉みたいな臭いがな」
そういうと鋭く行き止まりの先を睨んだ。
「・・・一度、甲板に出るよい!ビスタぁ!」
「承知」
マルコのかけ声でビスタが剣を振るえば、回りの船室は呆気なく吹き飛んだ。
その中に、不自然に残った扉が一枚。
マルコは大胆に扉を蹴破った。
瞬間にマルコとサッチが飛び込み、瞬間。
「来るなっ!」
「ハルタぁ!沙羅ちゃんを」
マルコとサッチの声が響き、が、二人の声は間に合わなかった。
「っ?!!!」
「見るな!」
マルコは慌てて沙羅を胸に抱き込んだ。
「これは・・・」
ビスタが声を失った。
「・・・ッく」
ハルタが顔をしかめた。
「マルコ隊長?」
異変を察知した仲間達が近づいてくる。
「来るな!!沙羅、沙羅!気をしっかり持て!」
「悪い、イゾウ呼んで」
マルコの制止に、サッチが指示を足す。
頷きながら、察しのいい仲間達がモビーディックに戻っていく。
「どうした?!・・・・・・」
呼ばれて即座に船に飛び降りてきたイゾウの眦が、
細められた。